六本場23
六巡目を迎えても、中野の手はほとんど変化していなかった。
二二四六①④⑥35北北白白 ⑧
搭子こそ若干変化したものの苦しさは相変わらずである。役牌二つ鳴けたとしても最終的な待ちは恐らく嵌張になろう。かといって門前ではまず聴牌出来まい。受けるとしても、悲しいかな安牌と呼べるものは自風くらいのものである。
つまり鳴くにしろ門前にしろ、和了りに向かうのであれば修羅の道を通らねばならないのである。中野は①を切った。
(面子オーバーで嵌張だらけ……面子手にしても七対子にしても遠過ぎますね)
個人的な主観ではあるのだが、中野は好形で和了りを取るよりも悪形の捌き方が練達しているイメージがある。メンタンピンなどは誰でも聴牌への道程が分かるものであるが、現在の中野の手のような少々込み入った手は悩むものである。
次巡、中野は4をツモった。一面子完成であるが、果たして何を切るか。
二二四六④⑥⑧35北北白白 4
(そうですね……私なら六でしょうか。ドラを活かすなら二切りでしょうけど、両嵌よりポン材残し、いざとなれば七対……)
彩葉はそう考えたが、中野は白を一枚切った。
(白切り?タンヤオ狙いにしてはいかにも遠い……)
「ポン」
不意に発声したのは中野の下家に座る聖陽の梅香崎であった。梅香崎は白を晒した後、東を切った。
(下家は染め手では無さそうですね。連荘狙いでしょう)
ツモ巡が下がって、中野は五を引いた。
(絶好のドラ面子完成……)
中野は持ち持ちだった白の余りを切り、更に次巡、上家の鍵屋町が切った⑦を⑥⑧で鳴いた。
二二四五六345北北(⑦⑥⑧)
あれほどまとまりを欠いていた手が瞬きする間に変様した。七対子やダブルバックにこだわっていたらこの手にはなっていない。しかも中を対子落としして⑦のチーであるから、誰でも食いタンへの移行と見るだろう。
(北は初牌ですが……この巡目で出るかも知れません)
中野が鳴いた後の、下家の梅香崎の手牌は以下の形。
一一一七八②②⑨⑨北(白白白) ⑨
(よし、北切りで二○○○の聴牌。ツモれば八○○オールだ。上家は白の対子落としで⑦チーだからタンヤオだ。北は初牌だけどまず当たらないだろう)
そう、普通ならダブルバックにするはずだからである。梅香崎は何の迷いも無く北を切った。
「……ロン、二○○○」
中野が手を倒したあと、一瞬、場がむっと押し黙ったような雰囲気になった。
(……さすがですね)
彩葉はまるで自分が和了った時のように、その身を震わせ、背中に粟立つ感覚を覚えた。




