六本場22
残るは後一枚、鍵屋町の想いは卓上の女神に届くのだろうか。自然、ツモる手に力が入る。部では禁止されている盲牌であるが、気が逸るのかつい牌面をなぞってしまう。
中盤を過ぎた十三巡目、鍵屋町は指先にざらりとした感触を引き当てた。
「ツツツツモっ、四○○○・八○○○!」
残り一枚となった不死鳥を引き当て、鍵屋町は声も高らかに手を倒した。4を見逃した結果は充分過ぎる程ついて来たという訳である。
「せっかくトップ目だったのに親被りか……」
中野はぼやきながら点棒を差し出した。この倍満ツモには他家も僥倖である。ラスがツモ和了って八○○○点の親被り、これで四者ほとんど差が無くなってしまった事になる。
(跳満を見逃して倍満完成……これは混戦して来ましたね)
彩葉は用紙を張り替えながらそんな事を考えていたが、この局の一連の流れははっきり言って運である。配牌とツモに恵まれ、安めを見逃しての倍満ツモ。
常識的、少なくとも競技麻雀的に見れば跳満の時点で和了っておくべきであろう。一か八かで見事に高めを引き当てたが、彩葉はいささか否定的な心境であった。あるいは競技麻雀慣れしている自分の感覚なのかも知れないが……
とにもかくにも、中野の親被りで南二局は終了した。
南二局が終わっての点棒状況は以下の通り。
鍵屋町 二八○○○点
中野 三一一○○点
梅香崎 二九七○○点
西葉川 三一二○○点
中野は親被りを喰らったとはいえ僅差の二着、逆転は充分可能である。しかしながら他家は遮二無二和了りに賭けて来ると予想される。嵌張偏張構わず、例えノミ手でもリーチを掛けて来るだろう。あるいは役さえあればどんな安手でも鳴いて来るはずである。
彩葉がここまでの流れを見ている限り、この面子で特別打ち筋に偏りのある面子はいないように思えた。基本的に教科書通りで、効率重視の打ち手であろう。
沙夜のような鳴き麻雀だったり、七海のような麻雀の実技そのもので相手を打ち負かそうとするようなタイプはいない。
逆に言えば面白味に欠ける、という事ではあるのだが、見ていて安心感はあった。
南三局、ドラ四。親は梅香崎。
残り二局を逃げ切りたい中野の配牌は以下の通り。
一二二四①④⑧38北北白中
これはまるっきりのクズ手である。せめてもの救いは門風牌の北が対子である事だが、それを鳴けても他の色の形が苦しい。基本的にはオリを見据えて打ち回して行く手牌であろう。
(和了りに行ける形ではありませんね……ドラ表の二度受けがまずネックですし、翻牌を鳴いたとしたら受けが出来なくなってしまう……我慢の局ですか)
中野は六をツモり、一を切った。
一方で、倍満をツモ和了った鍵屋町は好調であった。
五六②④⑥⑧⑧3468西發 7
(ドラは無いけど好配牌と絶好の第一ツモ!鳴いてのノミ手でも充分!)
点差は各人僅かである為、あまり長引かせると大きな手を和了られる可能性がある為、可能な限り早和了りを目指す必要がある。鍵屋町は發を切った。




