六本場18
(驚いてるな牧田?対面は萬子の下で聴牌してるんだよ。多分二か三絡みの待ち。初手に左端から一が出て来てるのに、さっき一番左端に牌を一枚入れた。暗刻にくっ付いての変則待ちだろうな)
だからと言って六が通るという確信も無いのだが、この辺りが西葉川の勝負強さを物語っていると言えよう。
(しかしま、この手はこれで終わりって訳じゃない)
次巡、西葉川は狙い澄ましたかのように二を引いた。これはもう一枚の中野の当たり牌である。
三四五五六⑤⑥⑦白白白發發 二
(三面張、リーチもアリだが、もう巡目も深い。ダマでもツモれればラッキーだが……流局で充分だな)
西葉川は五を切って、一-四-七の黙聴とした。
両脇は二人の聴牌を察しているのか、無理な牌は打って来ず、そのまま流局となった。
「テンパイ」
親の西葉川は手を広げた。
「ノーテン」
飛鳥台の鍵屋町はノーテンである。
中野は、西葉川のテンパイ宣言の一瞬でその打ち筋を察したのか、聴牌しているにも関わらず手を伏せた。
「……ノーテン」
「ノーテン」
そんな中野の様子を見て、西葉川は小さく鼻を鳴らした。
(ノーテンのはずがないな。手を読まれたからそれを明かさないように手を伏せたんだろ?)
流局となったが、この局は凄まじい攻防があった。後ろから見ていた彩葉にもそれは分かった。
(一盃口を捨てて振り込み回避……これは凄い事ですね。そして手を三面張に伸ばしつつ当たり牌を吸収している。私にこれが出来るでしょうか?)
この所彩葉は思う事がある。
自分は手を作って和了るが、中野は和了らせない為に自分も和了っていないのだ。
極論を言えば、自分が全局和了ってしまえばダブロンが無い限り他人は和了る事が出来ない。しかし麻雀は和了れる事より和了れない事の方が多いのだ。頭ハネルールなら和了れるのは一人だけである。つまり七割五分は、振り込まないようにしなければならないのである。
無論、基本的には和了りを目指して手を進めて行くが、その進捗具合では早い段階でオリを見なければならない。字牌を溜め込んだり、聴牌が早そうな者を見極めて現物を持っておいたりと、その辺りの判断が優れている者は、和了れずとも振り込まない。
競技ルールなら、この闘い方は有効である。
しかし中野はそうではない。例えば先ほどの手なら、平和ドラ一を聴牌した時点でリーチを掛ければ恐らく他家はオリるだろうから、後はゆっくりツモ和了りをすれば好い。
しかしそれをせず、仮聴としつつも手を高くし、結果自分は和了れずだとしても他家も和了れていない。
単に麻雀の技巧だけでなく、人読みや手癖読みが中野は優れているのである。これは競技ルール馴れした自分には身に付いていない。最近でこそその辺りも意識するようになってはいるが、中野は元々そういう環境で打って来ているのだろう。
闘う為の打ち筋と、闘わない為の打ち筋。どちらが『強い』のか──彩葉は、自分の若さではまだ分からないと、そねんだ。




