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一本場15

「今日はアールグレイです。こちらでよろしいですか?」

 屈託のない彩葉の笑顔が断ることを拒んでくる。中野も仕方なく、日本茶をもらうことにした。

「日本茶ならケーキよりこちらが合うかと……」

 彩葉はザッハトルテの代わりに、椿皿に乗せられた葛餅を差し出して来た。コーヒーはブラック派である辺り中野は甘いものが苦手ととれるが、彩葉の笑顔を無下にするのは全男子生徒に対する宣戦布告である。中野は葛餅を受けとり、まじまじと眺めた。冷涼な雰囲気の葛餅に濃厚な黒蜜がたっぷりと掛けてある。匂いだけで虫歯になりそうだ。

 彩葉が夕貴と沙夜の分のお茶を用意すると、女子高生が大好きであろうおしゃべりタイムが始まった。

 ソファには夕貴と沙夜が座っているが、中野はなるべくソファの隅に座るように努めた。彩葉はアンティークなアームチェアに腰掛け、夕貴が楽しげに話している様子を見て、微笑みながら紅茶を傾けていた。

 と、いうか、本来は麻雀をやるためにここへ拉致されて来たはずなのだが、これではただのお茶会である。中野は神妙な面持ちで葛餅を口に運んだ。

「そういえば七海ちゃん遅いねー」

 中野が来てからそれなりの時間が経った頃、夕貴が壁の時計を見上げながらそういった。七海は委員会の集まりに出向いているはずだ。

「そうですね、委員会はもう終わっている頃だとは思いますが……及川さんが来なければ始められませんね」

「七海ちゃんがどうしても自分が来るまでは始めないで、って言うモンだからさ。もうちょっと待っててね」

 中野は頭上にξマークを浮かべながら、ぬるくなりかけたお茶を一口飲んだ。


 一方の七海は夕日の射し込む廊下を小走りに走っていた。思いも掛けず会合が延びてしまい、時刻は既に17時に近い。最終下校時刻までに半荘が何回出来るだろうか?

 七海は部室のドアへ飛び付くと、ほとんど叩き付けるようにして開いた。その瞬間、中からはいかにも楽しげに談笑する声が聴こえて来た。部員の四人に加え、いつもは聴こえない男子の声がする。どうやら先輩方二人はきちんとお役目を果たしてくれたようだ。

 七海がロッカーをかわして中に入ると四人は七海の方を見ず、麻雀をする時のように卓を囲み、あーでもないこーでもないと言いながら卓の中央に顔を集めていた。

「あの……遅くなって」

「シッ!七海ちゃんちょっと静かにして!」

 卓の中央に向かって右手を伸ばしているのは夕貴である。もしかして麻雀をしているのでは、と思った七海であったが、よくよく見ると、麻雀牌を器用に積み上げ、ジェンガよろしく遊びに興じているところであった。

「……あ、あぁ!」

 夕貴は麻雀を打つ時以上に集中して牌を抜いていたが、やはり麻雀牌はジェンガよりも小さく面も綺麗に平らではないため、建立された麻雀牌の塔は神の怒りに触れ倒壊してしまった。

「あー惜しかった!やっぱり三段目だったかな~」

 誰がこんなことをやろうと最初に言い出したのかは定かではないが麻雀牌はこんなことをするための道具ではない。七海は四人の間に割って入った。

「ちょっと何をしてるんですか!牌が傷みますよ!」

「いやぁ私が後一枚耐えれば三人の内どこかで崩れるだろうなーって思ってさー」

 夕貴は頭を掻きながらそんなことを言った。

「部長までしなくても……」

「ごめんなさい、つい、興が乗ってしまって……」

 彩葉は口元に手を当て、妖艶に笑った。

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