六本場16
東三局、ドラ6。親は聖陽の梅香崎。
お互いに牽制しあっているようで、満貫以上が狙える手でありながらどうにも打ち合いにはならない。競技ルールなので当然と言えば当然である。
一発裏ドラのあるルールなら聴牌即リーも有効だろうが、このルールなら先ほどの中野の手のように跳満クラスが狙える手でないと、リーチは価値が低い。役無し嵌張が満貫になるのは一発裏ドラルールだけである。
八巡目、中野の手牌は以下の形になった。
五六六七④⑤⑦⑦⑦⑧345 3
(好形一向聴……普通なら平和とドラ受けの両天秤で六切りですね)
しかし中野の打牌は平和の消える⑧切りであった。
(平和よりもタンヤオ?ドラ受けも確かに残りますが……何故わざわざ受けを狭くするような事を……)
十一巡目に中野は③をツモって聴牌、ドラ筋の3―6待ちでリーチを掛けた。
(ドラをツモればほぼ満貫……でも自分で二枚使いの亜両面、ドラはまず出ないと見て好い……)
三九◯◯を打ち込んでいるとは言えその前に一回和了っているし、特に打点を追わなければならない状況ではない。
何故中野がこんな非効率的な打ち方をしたのか、彩葉には図りかねた。
結局中野はツモれず、一人聴牌で流局となった。
(中野くんは十五巡目に⑧をツモっている……普通に両天秤で打っていれば和了っていましたね)
無謀とも言えるドラ狙いで結局流局である。六切りからの聴牌で和了れていたとしても不聴罰符と対して差はなかったが、それは結果論である。
罰符を払いながら、飛鳥台の鍵屋町は中野の打ち筋を検めた。
(一向聴から⑧切り?平和含みの三面受けを潰して確定タンヤオ狙い?しかも⑧をツモって和了り損ねてる……)
鍵屋町は眼鏡を持ち上げてレンズを光らせた。
(ドラツモの満貫クラスを狙いたいのは分かるけど……柊さんはともかく、この男の子は大会でも見た事はないし、恐らくは人数合わせの新人かな)
ごく基本的な牌効率ではあったが、中野は選択ミスにより和了りを逃してしまった。しかし中野の狙いは不明ではあるものの、普段中野の打ち筋を見ている彩葉だけは、その打ち筋にもきっと何らかの意味があるのだと洞観していた。




