六本場15
その後中野は引き難いと思われていた急所を引き当て、十巡目に聴牌した。
三四五八八②③④⑧⑨⑨45 ⑦
二枚見えているドラ表の⑦を鬼引きし、⑨切りでドラ一の平和聴牌となった。
(345の三色も見えますが……先制リーチでツモれば一三○○・二六○○、聴牌している親を警戒して大事に行くなら出和了り二○○○点の黙聴……)
もう中盤を過ぎているし、親は聴牌していると考えると下手に手を固めるよりは受けの利く黙聴を選ぶのが普通だろう。それに対面の強気の初牌切りも気になる。
中野もその辺りを勘案したのか、⑨切って黙聴に受けた。
「ん……ツモ。七○○・一三○○」
次巡、中野はあっさりと3をツモった。結局のところ西葉川の東切りで和了れた事になる。
自ら和了るでなく、他家が利するだけの初牌の東切り。これを自分が出来るかどうかを、彩葉は中野の最終形を記入しながら思惟した。
東二局、ドラ③。親は中野。
和了って親を引いた中野の配牌は以下の形。
三五七②③④⑤4667東南 四
好配牌、ナイス第一ツモである。これを和了れば更に弾みが付くだろう。中野は平和狙いにする為か、連風牌の東から切った。
スルスルと手が進んで五巡目、中野は一向聴となった。
三四五七②③④⑤4667南 5
雀頭が無いままであるが絶好の嵌張引き、中野は七を切った。
八巡目、中野は聴牌した。
三四五②③④⑤45667南 8
南切りで②、⑤のノベタンである。しかしドラ跨ぎの筋である為、リーチを掛けてもまず出まい。②はドラ表で一枚少ないし、ここは手変わり待ちに受けて、その内に②、⑤が飛び出して来るようなら和了れば好い。
中野は南を切って仮聴とした。
十巡目、中野の対面の西葉川がツモってからやや考える様子を見せた。
(リーチ……?)
彩葉は採譜をしながら西葉川の様子を窺っていたが、西葉川は結局手出しで④を切り、リーチはナシであった。
十三巡目、中野は待望の手変わりを迎えた。
三四五②③④⑤456678 3
索子の三面張、高めなら三色もある、三翻アップの振り替わりである。中野は②を手に取った。
「リーチ」
「ロン!」
中野が親リーを宣言して②を切ったと同時に、対面の西葉川が手を倒した。
五六七③④334455北北
「三九○○」
「ん……」
中野は特に表情も変えず、五千点棒を差し出し、釣りを受け取った。
西葉川の和了りを見て、彩葉はある事に気付いた。
(対面は前巡に七を切っている……十巡目に④切り、十一・十二巡目はツモ切りだから、十巡目にこの形から④を切っているという事になります……)
五六七七④④334455北北
普通なら五か六切りの七対子、あるいは一盃口の聴牌取りで七切りの手変わり待ち、あるいは北を落としてタンピン狙いと行くところだろうが、西葉川は④を切り、一向聴に戻している事になる。
(七切りで手変わりを待つにしても④④が両面に変わる確率は半々。タンヤオ狙いで北を切るとドラの③やドラ受けの⑤をツモった時が痛い。でも④切りとしておけば、萬子が伸びれば二盃口狙い、ドラツモやドラ受けにも対応出来て、②や⑥ツモで嵌張になったとしても北を落としてタンヤオへの移行を狙える。見た目の割には……繊細な打ち筋ですね)
対面の西葉川は単なるイケイケ麻雀ではないようだ。そのガサツな印象の割には丁寧な打ち回しをしている。
一局目の東強打といい今の繊細な打ち筋といい、意外と対面は曲者のようだ。自身が打っているわけでもないのに彩葉は西葉川を警戒した。




