五本場48
厨二魂に溢れているマスターが、やがて注文の品々をテーブルに運んで来てくれた。調理中からかぐわしい薫りが店内に充満していたが、いざ現物を目の当たりにすると、はしたなくも腹の虫が鳴いてしまいそうになる。
「はいこっちがペスカトーレ、こっちがプッタネスカね」
テーブルに並べられたそれらは、『バーン』とでも効果音をつけたくなる程圧巻であった。
七海が頼んだペスカトーレは、アサリやエビなど、色とりどりの海鮮の具材がニンニクや白ワインで調味されたトマトソースに絡み、思った以上にボリュームがある。
中野が頼んだプッタネスカは赤唐辛子やニンニクをケッパーなどと共に炒め、それとトマトソースを合わせたいかにも刺激的なレシピである。プッタネスカはイタリア語で『娼婦』を意味するが、なるほど確かに裏路地に立つ娼婦のように刺激的かも知れない。
「どうぞ」
「いただきます……」
ここまで本格的なパスタは口にした事がない。七海はおっかなびっくり、スパゲッティを口に運んだ。
ややニンニクの薫りが気になるが、海鮮の風味とトマトソースが好くマッチし、かすかにワインの薫りが更にそれを引き立ててくれている。大振りなムール貝がその存在を誇示している中で、他の海鮮たちも見事に皿の上というオーケストラを盛り上げていた。
「美味しい……」
「だろ?どれ俺も」
中野も粉チーズをまぶし、その刺激的なパスタを口に運んだ。見た目からして辛そうなパスタだが、中野は実に美味しそうに食べている。
ひりつくような勝負をしていた為か、思ったよりも空腹であったようで、初めは食べられるか不安だった七海も、自分の名前を冠したそのパスタをあっさりと平らげた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
最後にナプキンで口の周りを拭き、お食事タイムは終了となった。




