五本場41
「前に組んだ彩葉ちゃんの『美人女子高生雀士』って記事大好評だったんだよ?プラスインタージュニアチャンピオンも美少女だし、これは外せないって私のジャーナリストとしてのハートが奮い立ってるね」
「確かにその記事、私も拝見しましたけど……こそばゆくて仕方ありませんでした」
「ま、私も商売ってのはもちろんあるけど、やっぱり『麻雀現代』の記者としては追いたい案件だからさ」
子供さながらにストローでオレンジジュースを吸う伊達はとにかく楽しそうである。これがジャーナリスト魂というヤツであろうか。
「本当はガッコ通さなきゃいけないんだけど……プライベートって事で、ちょっとだけお願い。ね?」
伊達は両手を顔の高さで合わせながらウインクして来る。この人は相変わらずだ……と思いながらも、彩葉は苦笑いした。
「なら私も一人言を呟く事にします。好いですか、一人言ですよ?」
彩葉がそう言うと、二人は顔を突き合わせてニヤリと笑った。
「えーっと……彩葉ちゃん、今部長なんだよね?」
「はい」
「正直言って、手応えはどう?」
「ええ、及川さんはもちろんの事、他の部員たちも頼りになります」
「やっぱり一番の推しメンはチャンピオン?」
「え?ええ……それはもう」
一瞬彩葉は躊躇した。七海が主砲なのは当然であるが、彼の人の顔が浮かんで来たからである。
「他のメンバーはどう?」
「及川さんは言うまでもなく。鳴きを使わせたら一品韋駄天のミステリアスガール、瞬間最大風速最速のボンバーガール……」
「ふんふん、やっぱり彩葉ちゃんは分かってるねー、おねーさん嬉しいよ」
彩葉の受け答えに、伊達は嬉々とした様子でメモ帳にペンを走らせている。
「後一人は……」
「後一人は?」
彩葉は一瞬言葉に詰まった。会話力では人後に落ちない彩葉であるが、彼の人の事を何と形容したら好いのか、本当に迷った。
「期待の新人、ワイルドカード!……といったところでしょうか」
「……」
苦し紛れに言葉を紡いだ彩葉であったが、伊達は走らせていたペンを止め、彩葉の顔を見上げて来た。
「……彩葉ちゃんにそこまで言わせる新人は心当たりないなー。インタージュニア出場者?じゃなさそうだね」
やはりジャーナリストだけあって洞察力が恐ろしく高い。彩葉はお茶を濁してしまおうかとも考えたが、それは無駄だろうと思い直した。
「……ええ、私も永くインターハイを目指してますけど……やっぱり巷には不世出の凄腕がいるものです」
「ふーん……チャンピオンはともかくそっちの方も面白そうだね」
伊達は走り書きではなく、ゆっくりとメモ帳にその案件を書き記した。その表情は恍惚に満ちているようだ。
「ふんふん……まあこんなものかな。ありがとね彩葉ちゃん。また正式に学校通して取材に来るからその時はよろしくね」
「はい……」
伊達は手早く荷物をまとめ、テーブルに丸めて置いてあった伝票を手に取り、彩葉に向かって楽しそうに手を振りながら店を出て行った。まるで台風のような人だな……と思いながら、彩葉も荷物を手に取った。




