五本場28
日和亭は首をひねり、視線を読んでいた新聞から七海達の方へと向けた。
「おお、中野くん。今日は彼女連れかい」
「どうもマスター。店大丈夫なんですか?」
「こんな雨じゃゴミ捨て場の野良犬も来ないさ」
日和亭は新聞を四つに折り畳み、待ち合い用と思われる古いビニール製のソファに置いた。
「洋食屋の店長だよ」
「及川です……」
「よろしく嬢ちゃん」
一通り顔繋ぎも済み、ノノがカバーを外して自動卓を起ち上げた。
「えっと……及川さん、ルールは……?」
いかにも陰気な印象のノノであるが、仕事を行う手付きは中々どうして、堂に入っている。ノノは手際好く卓を整えながら七海に訊いて来た。
「あ、はい。さっき中野くんから訊きました」
「そう……なら大丈夫……だね?」
無事に卓の起ち上げも済み、四人は掴み取りで場決めを行った。その結果、起家がノノ、後は中野、日和亭、七海の順に決まった。親は回り親らしく、東風四回なら各一回ずつ起家が回って来る。
雨音が室内にも響いて来る中、いよいよ対局が始まった。
東一局、ドラ⑧。親はノノ。
七海はまずビンタルールが初めてであった。中野からルールを聞いた限りでは原点以上を目指す事が重要となる様であるが、細かい綾はまだ分からない。こればかりは打ってみて感覚を掴むしかない。
(わずか東風四回の勝負……いえ、こうで無くては意味がありません)
そう、敢えて自分に不利となるルールでこそこの勝負には意義があるのだ。七海は深呼吸を一つすると、配牌をめくった。
一七④⑤⑦⑨245東南南發
とりあえず配牌は可もなく不可もなくといったところである。平和系、ドラを引ければ好形……と言ったところであろうか。七海は第一ツモで六を引き、一を切った。
「しかしノノも大変だな。親父さんの道楽に付き合うのも」
中野は打ちながらそんな事を口にした。
「ん……ま、まあほとんど座ってるだけだし……お客さん皆好い人ばっかりだし」
そう言いながらノノは中野の顔を前髪越しにちらりと見た。中野はその視線に気付いているのかいないのか、ツモってから北を切った。
「親父さん今どこ上ってんだ?」
日和亭も会話に入って来る。
「え……と、北信越の方」
「それじゃ中々帰って来られんな。……お、好いとこ来たぞ」
日和亭はそんな事を言いながらドラ表の⑦を切って来た。よほど好いところが入って来たらしい。
場は五巡目、七海の手牌は以下の形。
六七④⑤⑦⑨⑨2345南南 6
ツモは好い。ここから何を切るかである。手広く対応出来るのは⑦切りだがドラ受けが無くなる。かといって⑨切りとしても最終形がドラ嵌張とはいかにも和了りにくい。
東風戦なのだからスピード重視でドラ受けは考慮しない事にし、七海は日和亭に合わせて⑦を切った。




