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五本場26

「昨日店に傘忘れてただろ?預かってるよ」

 中野が差し出した右手には七海のお気に入りである傘が握られていた。七海はその傘をしばらく見つめた後、中野の顔を見上げた。

「あなたは──」

「ん?」

「なぜそんなに他人に優しく出来るんですか?」

 質問の意図が理解出来なかったのか、中野はきょとんとした表情になり、首をかしげた。

「例えレートが無くても勝負は勝負です。なのにあなたは──」

「……」

「私は勝つ為の麻雀を覚えて来ました。でもあなたの麻雀はその麻雀よりも遥かに高みにあります。地区予選も近いというのに、私は、私は──」

 濡れているので好く分からなかったが、どうやら七海泣いている様であった。普段は勝ち気な事が多い七海ではあるが、この時ばかりは感情が昂ったのか部活中にはまず見られない表情である。

「及川がさ」

「……え?」

「麻雀に対して凄く真摯なんだなってのは俺も好く知ってるよ。熱意に技術も伴ってるし、実際にインタージュニアチャンピオンだし」

 七海は中野が話している様子を黙って聞いた。

「お世辞抜きで言う。及川の麻雀は俺も尊敬してる。純粋に闘う為の麻雀だって事が分かる。でも俺は、闘う為には麻雀を覚えなかった」

 七海はまだ、黙って聞いていた。

「勝負するのも麻雀だけど、俺は勝っても負けても楽しいものだって思うんだよ。全員で盛り上がって打てれば、そう言う麻雀もあるって事さ」

「そうですか……」

 とりあえず中野は七海の質問に一応の答えを出してくれた。それで得心したかと言われればまた別の話ではあるが……。

 七海は顔を袖で拭い、不意に視線を中野に向けると、口を開いた。

「お願いがあります」

「お願い?」

「どこでも好いので、この辺りにある店で私と打って下さい。その……私なりに気持ちに整理を着けたいんです」

「……分かった。一番近いのは……そこの裏通りにある店だな」

 中野の返事を受け、七海は傘も受け取らずに歩き出した。中野は傘を手にしたまま小さく笑い、ため息をつくと、七海が濡れない様に傘を差してやり、七海の後ろを着いて行った。

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