五本場24
「今新幹線通してるの知ってるよね?」
「うん」
「この辺りは駅前の一等地だからね、大手のデベロッパーがショッピングモールに再開発したがってるんだよ。この商店街は戦後の闇市から発展したような地域だから建物の作りが悪かったり登記が複雑だったりで、細切れみたいに再開発するのは無理だからまとめて大手が買い取ろうとしてるんだよ」
「それで皆無くなるって事?」
「そう言う事」
商店主の大将が言うのだから間違い無いのだろう。行き付けの店が無くなるというのはにわかに信じ難い事である。
「皆には随分通ってもらったのにゴメンね。まあ、まだ一年くらいは先の話だけど」
チョコレートソースとカラフルなチョコレートスプレーの乗ったクレープを食べながら、夕貴と沙夜は怪訝な表情を浮かべ、顔を見合わせた。
「この間言ったはずてしょう!?及川さんに妙な事を吹き込まないで下さいって!!」
「あたたたた落ち着いてくれよ部長」
部員達がいなくなった部室に、普段柔和な彩葉の怒号が響いていた。彩葉は中野のワイシャツの襟を掴み、背の高い中野の顔に自分の顔を目一杯近付けて声を荒げている。
「不可抗力だったんだよ、店に行ったら及川がいるし……」
「だからといって打たなければならないという事はありませんでしょう!?」
中野は彩葉の細い肩をそっと両手で抱え込み、ゆっくりと身体を引き離した。やはり事情はどうあれ密室でうら若き男女が密着している事はいかにも剣呑である。
「あんまり怒るとお肌に好くないよ、部長」
「……大きな声を出して申し訳ありません」
中野から宥められて、彩葉は冷静さを取り戻したのか、咳払いを一つして、中野がソファに座ったのに合わせ自動卓の椅子に腰を下ろした。
やはり七海の不審な態度は彩葉にもバレていたらしく、その原因である中野を尋問していたところであった。
「及川さんがこの部の主力である事はご存知でしょう?」
「十二分に」
「彼女は純粋な競技ルールで育って来ているんです。あなたが巷のルールを得意としているのは分かりますが……彼女が自信をなくすような振る舞いはなるべく控えて欲しいんです」
「ん……肝に命じておくよ」
「あなたの実力も私は好く知っているつもりですが……私にはもう今年しか無いんです」
不意に彩葉は寂寞な表情を浮かべた。彩葉は今年三年生であり、今年度のインターハイを逃せばもう後が無いのである。
彩葉の心境を鑑みるかの様に、不意に曇天の空から雨滴が落ち始めて来た。




