五本場23
「こんちわおっちゃん!あたしいつものー」
「ん……私も……」
放課後帰り道、麻雀部のにねんせーずは商店街の一画で買い食いに勤しんでいた。寄るはつものクレープ屋で、相変わらず的屋風の大将がクレープ生地を器用に伸ばしている。
「あいよお二人さん、ちょいと待っててねー」
にねんせーずが表のベンチに腰掛けて出来上がりを待っていると、不意に空が重苦しい音を立て、それに呼応するかの様に雨滴が落ち始めて来た。
「あちゃ降って来たかー」
ベンチの上には小さいながらも軒がある為、何とか濡れずには済む。二人はなるべく店の建物側に寄り、身を濡らすまいとした。
「降って来たね、はいいつものお待ち」
大将がカウンターから空を見上げるような体勢で身を乗り出し、二人にそれぞれのクレープを差し出した。
「大丈夫?濡れない?」
「だいじょぶだいじょぶ」
そんな事よりクレープを食べられる嬉しさが勝っているのか、夕貴は特に気にするような素振りも見せず、クレープにかじり付いた。
「やっぱりおっちゃんとこのクレープはいつもサイコーだよねー」
夕貴はお世辞抜きにそう言った。沙夜は特に何も言わないが、きっと同じ思いであるに違いないと夕貴は思っている。
「そうかい?ありがとね」
カウンターから身を乗り出した体勢のまま、大将も満更ではない様子である。沙夜の倍はあろうかという太い腕をカウンターに乗せ、二人が食べている様子を見ながら、不意に大将は物憂げな表情を浮かべた。
「おっちゃんどうかした?何か暗くない?」
夕貴は食べながらそう言った。
「いや実はね……この店もうすぐ閉めちゃうんだよ」
「え?なくなっちゃうって事?」
「そう」
「……!」
大将の言葉には、さすがの沙夜もそれと分かる驚愕の表情を浮かべた。
「そんなの寂しいなぁ。もっとこの店のクレープ食べたいのに」
「はははありがとね。でもこればっかりはねぇ……」
どうやらやむにやまれぬ事情があるらしい。そう言えば……と、沙夜も不意にある事を思い出した。
「私のバイト先も閉めるって言ってた……」
「え、沙夜のところも?」
「確か木村さんのところだっけ?まあ、この辺一帯全部なくなっちゃうんだよ」
「えっそうなの?」
のんのんとクレープを食べている夕貴にとって大将の言葉は衝撃的であった。親が萬子を二副露しているところに、彩葉がドラ表の五を切った事くらい衝撃的であった。




