五本場19
翌日、麻雀部では昨日の予定通り地区予選のオーダーを決定する会議を執り行う為に部員が集まっていたが、七海だけがまだ姿を見せず、集まった四人は卓を囲んで時間を潰していた。
「七海ちゃん来ないねー」
部活開始の時間から既に半時間経過している。事情が無ければ時間に正確な七海なのだが、特に連絡も無くここまで遅れる事はまずない。
「平坂さん、中ロンです」
不意に彩葉が手を倒した。中単騎の七対子であった。
半荘や東風戦ではなく、一局精算方式と同様、和了り親で打っていた。これならば七海がいつ来てもすぐ止める事が出来る。
「オーダー決めるんだから真っ先に来てると思ったけどなーいきなり委員会の仕事が入ったとか?それでも連絡くらいはしてくれても好いのにね」
夕貴がそんな事を話しているのを聞いて、彩葉は下家の中野の方をチラリと見た。その視線にはかなりの含みがある。つい彩葉と視線を合わせてしまった中野は、バツの悪そうな表情を浮かべ、手出しで三を切った。
「ロンです」
一一二二三七八九東東東白白
「親倍です」
点棒も使わない茶殻麻雀である為、彩葉は遠慮無く手を作りに来ているようだ。
「……キツいな、部長」
まるで上司から絞られている平社員のように中野は縮こまり、自分の手牌を崩した。
彩葉が何回目かの親での対局が始まった時、ドアの開く音が聞こえ、七海が部室内に姿を現した。
「……すいません、遅くなりました」
今にも消え入りそうな声で話す七海は恐縮しているらしい。
「及川さん、遅かったですね。……配牌をしてしまったので、この局が終わるまで待っていて下さい」
サイが振られた後なので対局自体は始まってしまっている。七海もそれは承知で、上下に並ぶ彩葉と中野の手牌が見渡せる位置に椅子を据えた。
最終局、ドラ②。親は和了り親で彩葉。
彩葉の配牌は以下の形。
一三四①①④⑤⑤⑥37西發 一
悪いという程でもないが、好配牌というわけでもない。すんなり決まれば平和だろうか。
一方中野の配牌は以下の形。
二二四七七八九②③4南白發
こちらも感触的には彩葉と同等の手である。後はツモ次第であろう。彩葉は西を切った。
四巡目、彩葉の手は以下の形になった。
一一三四五①①④⑤⑤⑥37 2
(索子がくっ付いて一向聴……でもシャボの受けが残ってしまう。ひとまずは7切り……?)
和了りさえすれば好いのだからシャボでも何でも構わずリーチすれば好い。七海はそう考えていたが、彩葉は何と①を切った。
(①切り?それだと二向聴戻し……)
次巡、彩葉は③を引いた。そこで彩葉は7を切った。
一一三四五①③④⑤⑤⑥23
(両嵌受けを残した……という事ですね。さすがは部長)
同巡、中野の手は以下の形。
二二四五六七七八八九②③白 三
安めだが平和テンパイである。中野は白を切った。
一周して、彩葉のツモ。
一一三四五①③④⑤⑤⑥23 ②
彩葉も⑤を切ってテンパイである。
(一手違っていたら①で打ち込み……捨て牌の選択を誤らなかった部長が有利……?)
直後、中野はドラの②をツモった。ドラとはいえ普通はツモ切りである。しかし、中野は彩葉の捨て牌を一瞥した後、何故か③を切って、平和①-④待ちからシャボの役無しテンパイに切り替えた。これには七海も面喰らった。
(平和を捨てて役無しのシャボ?何故そんな意味の分からない事を……)
確かに①はドラ表に一枚、彩葉の手牌と捨て牌に①ずつあって薄いところである。仮にそれを読めていたとしても、出和了り不能な手に切り替えるだろうか?七海も思わず身を乗り出した。
しかし中野は、次巡狙いすましたかのように一を引き、二を切った。
一二三四五六七七八八九②②
瞬く間に三面張、中野も彩葉に勝るとも劣らない手順で好形テンパイに持ち込んだ。二人とも五分の展開を繰り広げている。これでは決着がどちらに転ぶか分からない。場は淡々と進んで行った。




