五本場17
三五八八⑤⑨⑨179南發中
七海は思わず息を飲んだ。こんなにも悪い配牌は滅多に見ない。十二向聴くらいの配牌ではなかろうか?
(ツケが回って来ました……この配牌では何も出来ない)
親はトップ目であるし、ひたすら早い和了りを目指して来るだろう。スピード勝負どころか和了れるかどうかすらも怪しいこの手では、親が他家に振り込んでトップ陥落してくれるくらいの事しか期待出来ない。
(私は本当に……インターハイを目指して好いのですか、部長……)
七海の意気消沈をよそに、場は進んで行った。
九巡目、サラリーマンテンパイ。
三五六七七八②③③④④88 ⑤
(よしテンパイ。ドラの三を切って両面待ちだ)
まだ他家にテンパイ気配はない。サラリーマンはドラの三を切り、六-九待ちとした。
(ドラ?親はテンパイ……)
その時の七海の手は以下の形。
三五八八九⑤⑨⑨167發發 3
九巡目だというのに未だに一面子もない、凄惨たる状況である。親は恐らくテンパイ、捨て牌からするにタンピン系に見えた。七海はひとまず場に一枚切れている發を切った。
マスターはその時、カウンターから中野の手牌を眺めていた。七海が發を切った直後、中野はテンパイした。
三四五六六七①②③99白白 白
(中野くんはテンパイか……六を切ってリーヅモなら満貫で逆転)
絶好の白暗刻、普通ならば六を切ってリーチを掛け、ツモっての満貫狙いである。
「ん……」
しかし中野は、マスターの予想を裏切り、ドラの三を切った。
「リーチ」
(三切りリーチ?一翻下げて三面張を両面にして……確かに親はテンパイ気配だが……)
マスターからは見えないが、サラリーマンは六-九でテンパイしている為、中野は紙一重でその待ちを躱している事になる。
迎えた十二巡目、中野が手を倒した。
「ツモ」
四五六六七①②③99白白白 五
「リーヅモ白……裏無しか」
「という事は一○○○・二○○○ですか」
一○○○・二○○○ならば逆転されない。サラリーマンはトップ確定の和了りをしてくれた中野にそっと感謝した。
「ん……嵌張ツモになるからテンパネして一三○○・二六○○ですね」
「!」
後ろから見ていたマスターは中野の不自然な打ち方の真意をようやく理解した。
(ドラがあれば満貫になってしまうからわざと手を下げた……その理由は恐らく)
「五二○○の親かぶりという事は……」
点棒状況がかなり微妙である。サラリーマンが三○一○○点持ちから二六○○点を払うと二七五○○点、中野は二二三○○点が二七五○○点、そして二九○○○点持っていた七海が、二七七○○点となる。
「んー、裏があれば逆転トップだったのに……まあ同点なら上家取りで俺が二着ですね」
「て、テンパネして三着?」
サラリーマンは思わぬ事態に面喰らった様子である。
「というか、その手は三を持っていれば満貫じゃありませんか!」
「どうも親がテンパイしてるみたいなんで、安全な方を切ったんですよ。後は裏ドラ期待でした」
中野はいけしゃあしゃあとそんな事を言っている。
「私が……トップなんですか?」
及川は好く状況が飲み込めないのか、呆然とした様子である。
「好かったな及川」
中野の言葉は全く届かず、七海はただ対局の終わった卓上をぼんやりと見詰めているだけであった。




