五本場16
東三局、ドラ東。親は中野。
倍満をツモ和了ったが跳満直撃を喰らった七海は二九○○○点、サラリーマンはツモで四○○○点を削られたが跳満を和了った為三三○○○点、中野は二一○○○点、板前は一七○○○点である。
親の中野は8を第一打に切って来た。そして三巡目に、ドラである初牌のダブ東を切って来た。
(ドラ切り……?もうテンパったか?)
サラリーマンは中野のドラ切りを見て警戒を強めた。
「ポン!」
そのドラをすかさず鳴いたのは七海であった。親のドラ切りとそのドラポン、わずか三巡目にして一気に場が沸騰した。
「さすがに初牌のドラは鳴かれるか……」
中野はそんな事を言いながら北をツモ切りした。
(女の待ちは何でも有り得る……親がテンパっているかは分からんが、ここはひとまず……)
中野がテンパイしているかは定かではないが、サラリーマンは満貫が確定している七海が一巡目に切っている⑨を切った。
「ロン」
手を倒したのは中野であった。
二三四③④⑤⑦⑧234南南
「二九○○の一枚。三色はもったいないけど、まあ和了っておこう」
「親なら即リーでも好かったんじゃありませんか?」
サラリーマンは点棒を差し出しながらそんな事を口にした。
「ドラの在処が分からなかったから即リーはやめときました。鳴かれたならリーチは掛けられませんよ」
(チッ、親がリーチしてれば対処のしようはあったんだが……)
結果的にドラを鳴かせた事で中野は和了れた事になる。偶然といえばそれまでだが、どうにもサラリーマンは中野との相性が悪いようだ。
東三局一本場、ドラ⑤。中野の連荘である。
「おいてけ堀は勘弁してもらいたいなっと……リーチ」
五巡目、板前がリーチを掛けて来た。捨て牌に特に傾向は見られず、手成りでのリーチだと思われる。
「関さん早いな……これは困ったぞ」
一巡回って、中野は現物が無いのか、わずかに悩む様子を見せ、結局手成りで切る事にしたのか無筋の8を切った。
「ロン」
四四五六七①②③67999
「裏は……乗らないな。リーチのみだが一三○○が積み棒入れて一六○○なら悪くない」
「現物が無かったからなぁ……はい一六○○」
中野が点棒を差し出し、場はオーラスへと進んだ。
東四局、ドラ三。親はサラリーマン。
現在の点棒状況は以下の通り。
板前 一八六○○
七海 二九○○○
中野 二二三○○
サラ 三○一○○
倍満跳満と飛び出した序盤であったが、この点棒状況になると意外と分からない。ラスの板前も跳満なら逆転、満貫ツモでも二着、加えてリー棒が出ればトップになれる。
(トップまで一一○○点……何でも好い、和了ればトップ)
初っ端に倍満を手にした七海であったが、その後ははっきり言って他家のお陰でこの状況にある為、いささか脚が地に着かない気分であった。倍満を和了った後に跳満を喰らって、結果それなりに僅差となってしまっているのだ。
(仮にも私はインタージュニアの優勝者なのに……こんな無様を晒すなんて)
トップを狙える位置にいながらも七海の心中は必ずしも余裕綽々ではなかった。井の中の蛙大海を知らず、自分は温室の中でぬくぬくと育った観葉植物だったのだ。競技麻雀という枠を一歩外に出ればまるで赤子、野良試合でこんなにも苦戦してしまっている。
七海は配牌をめくった。




