一本場10
東二局、ドラは8。親は中野。七海は二六○○を振り込んだが対して問題とせず、配牌をめくった。
一三四九③⑤⑦6889西白
あまり好い配牌とはいえないが、ドラ対子があるため打点という点では申し分ない。喰いタンか、あるいは役牌を重ねて和了るのが一番早い。よほどツモに恵まれなければ平和は厳しいだろう。
七海は二をツモり、少しだけ考えて九を切った。
そして九巡目、七海の手牌は以下の形になった。
一二三四五③⑤⑥⑦6889 7
七海はここから③を切った。多少時間が掛かってはいるが何とか平和に持ち込めそうである。直後七海は六をツモり、9を切ってダマテンとした。リーチでも好いのだが、二枚使いの上、ドラの筋なのでリーチを掛けても出るとは思えない。
とりあえず失点を取り返せるだけの手なので、これ以上欲張る必要はない。
七海が息を潜めて和了り牌を待っていると……
「よし、リーチ」
不意に中野が5を切ってリーチを掛けて来た。七海はすかさず手を倒した。
「ロン!」
「ん?」
中野が怪訝な声をあげた。七海は一瞬手違いでもしたかと思ったが、間違いなく当たり牌のはずである。
中野が見ていたのは、七海の手牌ではなく七海の上家の手牌であった。好く見ればいつの間にか上家の手牌も倒されている。
二二六七七八八九⑥⑦⑧67
「ごめんお嬢ちゃん、頭ハネだよ」
上家が和了ったのは平和のみ、惜しいかな高めが出れば満貫の手であった。
「リーチが掛かれば和了らないわけには行かないもんな」
上家は中野が差し出した千点棒を受け取りながらそう言った。確かにその通りである。
「安く済んで好かったよ。対面に振ったら取り返されてるところだった」
中野は言いながら手牌を伏せた。
二三四五八①①①⑧⑨46發
マスターは伏せられた中野の手牌を見て小さく唸り声をあげた。中野はノーテンリーチを掛けていた。
(自分の手が間に合わないと判断して打ち込み……お嬢ちゃんはあの巡目で9を切ったからドラは対子以上で持っていると考えられる。お嬢ちゃんにツモられる前に、わざとリーチをして安めでも仕方なく和了らせるように仕向けた、ってところかな)
千点で場が回るのであれば確かにコストパフォーマンスには優れている。
七海はもちろん中野がノーテンリーチだとは知るよしもなく、間が悪かったと諦めて牌を流した。