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異世界と神風の指揮者《ディリジオール》  作者: 神嵜将太郎
第一章
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初仕事

 ギルドに到着した昴達は早速カウンターに出来た長蛇の列の後方を通り過ぎ、右奥の依頼掲示板へと足を進めた。


 掲示板を中心に、集まる大勢の冒険者の間を掻い潜り、前に躍り出る。


 貼り出されたA4サイズの依頼紙には、右上に大きくアルファベットが書かれていた。これが、依頼難易度を示すランクであろう。


 これを目印に全体を見渡すと、どうやら、カウンター側から順に段々と下のランクになるように並べられているのに気付く。


 冒険者に成り立ての二人は、当然I(アイ)ランクである。最低ランクのため、受けられる依頼は問答無用でIランクだ。


 一番右まで移動し、依頼内容を上から順に確認していく。


「草刈りに家事、物探し。牙狼討伐に、ペットか……ん? ペット探しじゃなくてペットになる人を募集してんのか……こんなの受注する人居ないだろ……」

「ち、ちょっと失礼」

「あ、はい。すみません」

「いえ…………デュフフ……」


 あ、ヤバイ奴が居た。そうか、こういう人がペットの依頼を受けるんだなぁ、何となく納得。しかし。


「くそっ! 間に合わなかったか……」


 身体の大きな男が依頼書を剥がしてカウンターに持っていった直後、実に真面目そうな容姿の男が、間に合わなくて悔しがっていた。人は見かけによらぬものだ。


 気を取り直して再び掲示板に視線を戻すが、これといったものが見つからない。


 昴がもたもたしている間にも次々と依頼書が剥がされていく。


 仕方ないので、実践経験が積めて、報酬も素材買取りを考えるとそこそこ高い、魔物討伐をしようと考え、依頼書を引き剥がした。フェアに念のため確認を取り、カウンターの列に並ぶ。


 暫く待って順番を待つと。


「あっ、昨日の」

「おはようございます、リリスさん」


 昨日の夕方に冒険者登録の際に案内してもらった、案内嬢のリリスがカウンター席に座っていた。偶然。列に並ぶ前に、カウンター辺りを頻りに確認して、途中で別の列に並び直していたが、偶然である。


 受注した依頼はスライム討伐。南向きに開いたビダーヤの門を出て、徒歩で南西に約3時間の距離にある小さな村、タトル村に大量発生したスライムの討伐である。


 スライムが最弱の魔物であることは周知の事実。しかし一般人に取って、物理攻撃が効きづらい上に、一度捕まると簡単に窒息死させられてしまう。それに加えて、収穫前の作物を枯らしてしまうこの魔物は、脅威である。


 その為、ギルドにはこう言った雑魚の始末が頻繁に依頼される。


 昴も例に漏れず、冒険者の一人としてその依頼を受けることに決めたのだった。


 ギルドを後にした二人は、そのままの足で保存の効く食べ物を街で買い、門を出た。


 門前には初日にここを訪れた時と同様に、入門順番待ちの人々が長蛇の列を成していた。昴達と同じ冒険者の格好をした人や馬車に乗る商人らしき人など、様々な目的を持つ人々が並んでいる。


 その列から少し離れた位置を通り過ぎ、南東の方角に進む。


 今日も雲一つない青空には、日本では見掛けない、矢鱈大きい鳥が飛び交っている。


 空を自由に駈ける鳥を見て、「空を飛べたら良いのに」などと昴は微塵も思わず、「あれは一体、焼き鳥何人分の肉が採れるのだろうか」、と明らかに人とは違う考えに耽りながらも、取り敢えずは確実に目的地に向けて歩いていく。


 踏み均されて乾いた土はやがて、短い草へと変わる。舗装されていないどころか人が通った痕跡も殆ど残っていない。


 元の大きさとなったフェアと二人、風が吹き抜ける草原を歩き続ける昴。


 まだまだ上がって間もない太陽は、穏やかに大地を照らしている。


「まだ着かないの?」

「ああ。後、30分くらいじゃないか?」


 既にビダーヤを出てから2時間半。涼やかな風の中黙々と歩いていた二人は、そろそろ目的地に着くというところまで来ていた。


 さらに暫く無言で過ごし。


「ここか……」


 小さな柵で囲われた村、というよりは集落が視界に入ってきた。


 依頼を達成しにやって来たタトル村は、人口が200人程で、その規模は非常に小さい。約3時間の距離は開いているが、‘‘魔の森’’が側にある為、村近くに降りてきた外敵の侵入を防ぐ役目を果たす、壕と柵が周囲につくられている。


 依頼書に書いてあるのは、スライムの討伐ということと多少の情報のみだったので、まずはその実態を正確に知る為にも村長には事前に説明を受ける必要がある。


 村に足を踏み入れた二人は、突然の部外者侵入で動揺し不安を露にする村人の内、一人の青年に話しかけた。


「すみません。ギルドで依頼を受けた冒険者です。村長に事情を伺いたいのですが……」

「あぁ、冒険者の方ですか。村長ですね。ついてきてください」


 そう言って先導する青年の後ろについて、簡素な造りの家々の間を通り抜け、比較的大きめの家の前に至った。恐らくこれが村長の家なのだろう。


 昴達を連れてきた青年が扉を叩いて暫くすると中から背中の曲がった老人が出てきた。二言三言青年と言葉を交わしたその男性は、その意識を側に立つ昴達に向けた。


「お主らが冒険者か?」

「はい。ギルドから派遣されてきた神風昴です。それで、こっちが──」

「フェアよ」

「そうか」


 そう、一言だけ返して、値踏みするようにこちらを見る村長。その居心地の悪さに身動ぎする。


「依頼内容について詳しい説明を受けたいのですが……」

「そうじゃな。まぁ、外でもなんじゃから、中へ入りなさい」


 青年は村長と昴達に別れを告げてその場を後にし、昴とフェアは村長に促されて彼の住居に入った。


 決して広くない家ではあるが、村長の家らしく客間があり、そこへと連れられる。


 微妙にささくれだった木製の椅子に身を預け、早速本題を切り出す。


「では、現在の村の状況について教えてください」

「わかった。まず――」


 途中で村長の奥さんらしき女性が運んできた飲み物を飲みながら聞いた依頼に関する情報は、纏めるとこんなものだ。


 この村は街から少しばかり距離があるので、基本的には自給自足で生活している。村の中にある畑で育てた野菜や近くの山で狩った動物を食べて生活しているのだ。


 その中でも当然、収穫の安定しない肉よりも、ある程度の量が定期的に確保できる農作物の方が、人々の生活を支える比重は大きい。


 しかし、収穫も間近という時に、不意にそれは現れたのだ。言うまでもなく、それが今回の討伐対象であるスライムだ。


 どうやってか村に侵入したスライムは、収穫目前の農作物を枯らして回り、それへの対処法を持たない村人が歯噛みする中、呆気なく全滅させてしまったそうだ。


 剣や農具しか武器として持たず、魔法で対処しようにも、生憎とこの世界では、貴族と実に少数の平民しか魔法が使えない。


 こんな小さな村に魔法使いが運良く居るということもなく、現在は村の蔵に保存してあった、限りある食糧で持ちこたえているらしい。


 話を聞いた昴は、意外と責任重大であったことに気を引き締め、問題の畑へと向かった。


 村の畑は村長の家からそう遠くない場所にあった。話に聞いていた通り、完全に枯れきっているのだが――


「スライムがいない?」


 そこに居る筈の魔物の姿が一切無かった。横に並んでいる村長に視線で問うたところ、どうやらそいつは足を踏み入れないとその姿を現さないらしい。


 その真偽のほどを定かにする為にも、昴は畑に足を踏み入れる。すると。


「うおっ!」


 突然地面から湧き出てきた粘性をもつ液体は、昴の身体目掛けて飛び付いてきた。


 昴にまとわり付く半透明の物体は、言わずもがな、標的のスライムである。


 振り払おうにも中々離れてくれないそれは、消化でもしようとしているのか、昴との接地面で蠢いているのを感じる。


 少しずつ皮膚が針で刺されるような痛みを伴ってきたことに焦りを覚えた昴は、やっとの思いで引き剥がしたそれを速やかに〈火焔〉で焼却した。


 しかし、取り敢えず魔物を葬り、身体にも異常がないことを確認して安心したのも束の間。


「まだ居たのか!」


 四方八方から次々とスライムが襲ってきた。


 殆ど隙間無く迫ってくるスライムに〈火焔〉を使っても、一部しか対処できずに残りを浴びてしまう。ここは範囲魔法を使うべきだ。


「吹き抜けろ 火炎の風 〈灼熱風(バーンブロウ)〉!」


 一瞬で判断した昴は、初級火属性範囲魔法〈灼熱風〉を放つ。


 途端に、スライムと昴の間に高熱の風が吹きすさび、その熱によってスライムは蒸発した。


「終わりました」


 他の畑も回ってスライムを撃滅した後、村長に終了の報告を行う。


「助かった。ありがとうスバル君」


 地味ではあったが確実に村を救った昴達は村人に惜しみ無い感謝を受けた。食べ物はスライムによる被害で量などたかが知れているというのに軽くではあるが昼食を振る舞ってくれた。


 遠慮なく食事をさせてもらった後、昴達はタトル村を悠々と出ていくのであった。

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