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異世界と神風の指揮者《ディリジオール》  作者: 神嵜将太郎
第一章
6/13

いざ、街へ

誤字の有無の確認をしていないので、後日修正すると思います。

 昴達が出た迷宮の入口は、‘‘魔の森’’の外側にあった。入口付近は魔素の影響で木が生えておらず、拓けた土地が広がっている。


 外に出てきたにも関わらず、人の気配が全く無いということが、死闘を掻い潜ってきて尚、‘‘魔の森’’を抜け出せていないのだと嫌という程理解させられる昴。


 自分を死に追いやろうとした竜がこの地に居るのだという事実を思い、顔を顰める。強かったとは言えども所詮、‘‘最初の難関’’であるミノタウロスに敵として認識されず、そのミノタウロスが束になって寝首をかこうにもアッサリ返り討ちに合うであろう存在が居るのだ。果たして自分は生きて街に帰れるのか、と不安が頭を過るが、昴は頭を左右に振って忘れようと努める。


 背後に視線を移すと、昴達が出てきた迷宮の出口は地中よりせりだしており、後ろは鬱蒼と生える木々に囲まれている。


 再び進行方向に顔を向け直す昴。


 昴が立つここは周囲より一段高く、先まで広く見渡せる場所で。


「見延ぶ彼の地は鮮やかに 我が目路へ至れ 〈遠見(スコープ)〉!」


 遠方を見遣れば、街らしき物が見受けられた。


 日本と比べれば圧倒的に背の低い建造物が建ち並び、中心部には一際大きな教会のようなものがある。見たこともないのに何となく懐かしく感じるその見た目は、昴の世界で言う中世ヨーロッパの街並みそのものだった。


「フェア、あれは何て街だ?」

「あれは――」


 遥か遠方に見える土地の名はビダーヤ。

アグレゲート王国末端の都市である。


 首都であるハンデルと比較すると少し見劣りしてしまうが、この街は王国の外縁部に位置しながらも、‘‘魔の森’’で出現する魔物の素材獲得による多額の報酬目当てにやって来る冒険者によって、常に賑わっている。


 アグレゲート王国のあるこの、グレードガジ大陸は、地球で言うところの南極大陸の形を成している。


 小国は星の数ほどあれど、主要国家の数は全部で5つ。扇の先端部分に相当する大陸の東部に殆どの国が集まっている。


 その中でも、帝国とレリジオ聖教国。そしてアグレゲート王国は、絶大な国力を保持する。


 アグレゲート王国は交易の盛んな国だ。


 と言うのも、この国は5ヵ国の中心にあるため、他国へ移動する際の中継地点の役割を担っているため、他国の品物が集まり易いのだ。


 兎に角。交易の国、アグレゲート王国の端にあるビダーヤがあそこに見える街である。


 周囲の状況把握を十分に済ませた昴は、再度‘‘魔の森’’を歩み始めた。






 ――――2時間経過


 今朝、2日に渡る気絶から目を覚ましてから計7時間。気が付いたのが昼を回ってからだったので、既に空は黒に染まり、肌寒くなってきた。


 付近を見回すと大木の根が屋根を造りだし、風雨が防げそうな場所を見つけたので、昴はフェアを伴ってその中へと身を潜めた。


「フェア、今日はここで寝よう」


 ‘‘魔の森’’からビダーヤへと向かう道すがら手に入れた果物を食べて、フェアは昴の足の上で早々に寝転がってしまった。


 この果物であるが、とても奇抜な色合いをしているので。


(じき)の報せを 我が元へ 〈毒見(ポイズンサーチ)〉!」


 と、専用の初級魔法で毒見を済ませた。


 この魔法は余りに限定された効果しか無く、応用もし難い。しかし、これの上位に当たる〈報告(サーチ)〉は、あらゆる物の詳細情報を知ることが可能なので、使用難易度がグンと跳ね上がる。また、これは上級魔法に位置されているため、消費魔力も桁違いになってしまう。だから、限定された効果しか持たなくても、使い勝手の良い〈毒見〉の魔法が多用されるのだ。


 因みに、魔法高等学校でも、サバイバルに便利なこの魔法は、比較的初期段階に習得させられる。魔術師になるなら誰しもが使える魔法なのだ。


「おやすみ、スバル」


 幼い顔をしながらも、大変な苦労を強いられて来たであろう小さな少女の髪を撫でながら、おやすみ、と囁く昴。


 やがて寝息を立て始めたフェアを暫く眺めた後、昴は魔法の鍛練を始めた。


 足元に落ちていた石を放り投げ。


「貫け! 〈石針(ロックスピアー)〉!」


 前方に立つ木に向かって放つが。


カンッ


 と、高い音が鳴って弾かれた。


 放り投げた石は空中で加速されていたので、魔法自体は発動されたことに間違いはない。


 やはり、時間が経って‘‘生命の泉’’の効果が切れてしまったのだろう。


 一瞬、たった1日しか効果が続かないのか……と思ったが、自分が気絶した直後。つまりは、約3日前から効果が持続していたという事実に気付き、やっぱり凄いなぁ、と感心する昴。


 ‘‘生命の泉’’の絶大な効果には、その持続性も含まれているのだ。


 気を取り直して、次の魔法。


「吹き抜けろ 〈旋風(ウインド)〉!」


 昴の掌からそよ風が吹き出す。


「よしっ」


 威力は低いが、魔法が発現したことを確認し、小さく握り拳をつくる。


 今回の死闘で得た最大のものは、あくまでも昴の主観ではだが、風属性魔法の発現だった。


 父親の神風 (とおる)に憧れて魔法を始め、いつの日か風魔法を自在に操れるようになることを夢見て、ひたすら鍛練に励んでいた昴。


 適正が無いせいで威力が低いため、戦闘で使用できるものではないが、鍛練次第で威力はまだまだ上がるだろう。


 そう考えた昴は、幼い頃にも思い描いた理想の未来を頭に浮かべ、口元を緩ませる。


 心に火が着いた昴。理想に早く近づくため、夜も更ける中で一人、鍛練を続けていた。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








 空が白んでいく中、早速街へ向けて出発する昴達。


 実は昴。魔法の鍛練に集中し過ぎて寝るのを忘れ、遂には朝を迎えてしまったのだ。まぁ、つまりは徹夜だ。


 人が嫌がる鍛練を余りに楽しんでいた昴は、常に口元が緩み、もしこの場に人が通り掛かったなら。


「ママ~、変な人がいる~」

「だめよ!良い子はあんなの見ちゃいけません!」


 と、不審者に向けるような視線を浴びていただろう。と言っても、一度集中し始めた昴は、その視線に気付きそうもないが。


 しかも現在。フェアを伴って歩く昴は、一徹したにも関わらず、未だにその熱に浮かされていた。


 それを見たフェアは。昨日、一日中、竜の存在に恐れを抱いて顰めていた顔から一変、ゆるゆるに緩みまくっている昴の顔。そして、今にもスキップをし出しそうな程浮き足だった状態を見て。


(わ、私が寝ている間に何があったの……?)


 と、戦慄の表情を浮かべていたことは言うまでもない。


「ふと思ったんだけどさ。フェアって水の精霊だよね?」

「そうよ?」


 不意に何かを思ってフェアに話しかける昴。


「……正直言って、見た目だけじゃない……?」

「……え?」


 突然の言いがかりに思考が停止するフェアだったが、すぐに何を言われたのか理解し。


「どっからどうみても水の精霊しょうが!確かに‘‘生命の泉’’の管理者ってだけで、水を操ったり、水魔法が得意だったりしないけどさ……ほら、何かあるでしょ……ほら。あれとか……ね…………本当に水の精霊なのかしら……」


 昴の指摘に初めは強く言い返していたフェアであったが、徐々に自信を失っていく。


 実は、精霊に明確な違いなどない。


 かなり適当な性格をしている精霊王が、見た目だけで実に適当に割り振ったものなので、差など無いのだ。だから、例えフェアが水の精霊らしくなくても、水の精霊であることに間違いはない。無いったら無いのだ。


 因みに、中級魔法には時に、‘‘◯◯の精霊よ 我が身に宿りて~’’という詠唱のフレーズがあるが、これにも特に意味などない。実際、魔法を唱えた人間に精霊が宿る何てことは有り得ないのだ。


 そんなこんなで歩き続けた二人は、昼過ぎにはビダーヤに到着した。









 アグレゲート王国の都市の一つ、ビダーヤ。


 王国でも屈指の人口を誇るビダーヤに集まる人は、冒険者と冒険者に対する商売のために訪れる人ばかりだ。


 冒険者とは一般に、世界最大の民間組織である‘‘冒険者ギルド’’、通称ギルドに名前を登録した人間のことを指す。


 冒険者はギルドに寄せられ、掲示板に張り出された依頼を受諾。それをこなして報酬を稼ぐのだ。


 ギルドの主な役割は3つ。


 一つは、依頼者と冒険者の仲介だ。これは、依頼者が余りに低い報酬を設定したり、冒険者が高い報酬を出させたりすること。また、報酬がきちんと支払われないことで起こる、争いを未然に防ぐためだ。


 冒険者に出される依頼は、雑用や物探しもあるが、殆どは、害獣や魔物の討伐である。つまりは、命懸けの仕事なのだ。


 冒険者以外の一般人にも、スライムやゴブリンが雑魚魔物という認識が浸透しているためによく勘違いする人が居るのだが、どんなに弱い魔物が相手でも隙を見せればそれが勇者であっても、コロリと死んでしまう。


 冒険者もベテランになればそう言うことを理解できるのだが、駆け出し冒険者にはそれが理解できない。況してや、魔物との戦闘経験の無いことが殆どの依頼者にはそれを理解できる筈も無く、命を賭けるには安すぎる報酬しか払われないことがあるのだ。


 そのため、引退した高名な元冒険者がギルドマスターとして管理しているギルドは、依頼に見合った報酬を依頼者に提示させる役割を持つ。


 二つ目が素材の買取りである。


 ここで言う素材というのは魔物の牙や毛皮等のことだ。ギルドは冒険者が依頼をこなす間で倒した魔物から得た素材を買い取って、別の所に販売。ギルド運営の費用を捻出しているのだ。


 販売先は大抵、鍛冶屋などの冒険者や騎士向けの武器や防具を製作する場所である。


 魔物の生まれ方は様々だが、魔素によって例外無く普通の動物よりも丈夫になっている。


 その為、武器や防具の製作にも只の動物から得られるものよりも魔物の素材が重宝される。高性能になる分、値段も跳ね上がるのだが。


 そして、最後が――これが一番重要なのだが――依頼の難易度設定だ。


 依頼を申請されたギルドは、報酬の設定よりも前にまず、依頼の難易度を設定する。


 ギルドでは独自に依頼難易度にA~Iの9段階の設定を設けている。一応、Aの上にSがあるので正確には十段階なのだが、ここ何十年も使われていないので、一先ず置いておく。


 取り敢えず。ギルドがこの設定を行う理由は一つ。冒険者の死亡数を減らす為だ。


 前述の通り、世界中にある沢山のギルドの支部であるが、その全てが過去にその名を馳せた元冒険者達にギルドマスターとして運営されている。


 彼らは全員、無数の依頼を達成してきた実績がある。ギルドマスターはその経験をフルに活用して依頼の危険度を査定。難易度を設定する。


 冒険者にも依頼の達成数に応じて同様のランク付けを行い、それ以下の依頼しか受注出来ないようにしている。


 これによって、この決まりが作られる以前と比較して、圧倒的に冒険者の死亡率が低下した。


 冒険者は勿論、死にたくて依頼を受けるわけでは無いし、ギルドも冒険者に無駄死にされて入手できる魔物の素材が減少することによる運営費の縮減を防げる。まさに、Win-Winの関係というわけだ。


 兎に角。この街、ビダーヤは冒険者によって支えられている様なものだ。


 ‘‘魔の森’’が目と鼻の先にあるので、街の周囲には冒険者が落とす莫大な金を投じられたであろう、巨大な壁が建てられている。


 その壁には‘‘魔の森’’から最も離れた一点を除いて、隙間が全く無かった。何故解るかと言えば、昴達が着いた場所は街の入口である門から最も離れた位置で、時間を掛けて回りをグルリと歩く必要があったからだ。


 ひたすら味気ない灰色の壁づたいに歩き続け、門に辿り着いた時には疲れ果てていた。……フェアが。


 昼過ぎには街に着いた筈が、既に日が沈みかけ、空は茜に染まっている。


 にも関わらず、門の前には冒険者になって一攫千金を夢見る、多くの人々が列を成していた。


「まだ時間が掛かるな」


 一日中歩き続けて疲れを見せるどころか、鼻歌を歌いそうな程浮かれっぱなしの昴。


 そして、列の最後尾に並びながらも嬉々として魔法の鍛練を始めた。


 人目を憚らず、顔をニヤニヤさせながらそよ風を起こし続ける昴に好奇の視線が集まるが、案の定それに気が付く様子はない。


 フェアはいつの間にか昴のバッグの中に隠れてしまったが、恐らく沢山人が居るところが怖いんだろう、と勝手に考えて昴は鍛練に戻る。


 やがて昴の番が回ってくるまで、列に並んだ人々は昴から一歩離れていた。


「……あ、あの」

「何ですか?」


 にやけ顔のひょろひょろな訪問者に、街を守る屈強な門番が怯えるという異様な光景を目の当たりにした人々は、また一歩彼から距離をとった。


「し、市民票を出してください」

「……市民票?」


 突然、‘‘市民票’’なる物の提示を求められる、というより懇願される昴。


 対して、異世界からやって来た昴が‘‘市民票’’など所持している筈もなく、これは……まさか……と、さっきまでの顔を引き攣らせてしまう。このままでは街に入れない可能性があることに気が付いたのだ。


「市民票は?」


 すぐに市民票を出さない昴に対して目をスッと細める門番。本来在るべき姿に戻って、ほっとした周囲の人々と昴の距離が詰められたのは皮肉である。しかし、昴自身は自分が不審者扱いを受けていた事実を知らないので、本人に皮肉として伝わることは永遠に無いのだが。


 そんな中、市民票の提示を催促されて焦る昴。何か言い訳を……と考えを巡らせるが、焦燥感のせいで良い考えが浮かばない。


 因みに、提示を求められている市民票というのは、アグレゲート王国で全国民に配布され、登録が義務付けられている物だ。


 その為、所持していないなど有り得ないのだ。


「もしかして……」

「あります、あります! ちゃんと持っています!!」


 もしかして持っていないのか、と言われそうになって、反射的に嘘をついてしまう昴。


 しかし、持っている筈もなく。


「あ、あれれ~ おっかしいぞ~」


 と、某少年探偵のようなセリフをはいてしまう。


 当然。


「キミ、話はこっちで聞かせてもらうよ」

「ち、ちょっと! 確かにここに――」

「はいはい、わかったから。こっちに着いてきてねー」


 と、なるわけで。


 街にやっとのことで入れたは良いが、門番同伴というのが、何とも悲しい話であった。

 

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