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異世界と神風の指揮者《ディリジオール》  作者: 神嵜将太郎
第二章
13/13

炎の道化師

間違って消去してしまいました。

 【グリンズ】に到着してから一夜明け、昴とフェアの二人は、街の探索という名目で出掛けていた。


「何か人だかりができてるな」

「ほんと、たくさんいるね」


 二人で街を歩いていると、屋台や食事処に加え、武器屋やアクセサリーショップみたいな店などが建ち並ぶ道の途中、この街の住人らしき男二人の気になる話し声が耳に入ってきた。


「おいおい聞いたか?」

「ああ、聞いたぞ。アドナさんだろ?」

「そうだ。確か中央の大広場だったよな」

「おうよ。そろそろ時間だし、急ごうぜ」


 そう言って、二人は駆けていった。


 よく見てみると他にも同じ様な会話をする人々に加え、同じ方向へと向かっていく集団も複数見受けられた。

 人々の行く先に目を向けると、そう遠くない距離に人だかりが出来つつあるのが見える。


「アドナって誰だろーね?」

「さぁ? ま、時間もあるし、ちょっとだけ覗いてみるか」


 数分で辿り着いた人の集まりの中心。全員が向く中心に、件のアドナさんがいるのだろう。

 集団の外縁部にいた昴とフェアの後ろにも、いつの間にか更なる人の壁が出来ており、前に前にと押し込まれる。


 人に前後左右からもみくちゃにされる中、ありきたりな口上と共に聞こえてくる観客の歓声。どうやら大道芸人のアドナというのは、大規模な人だかりができることからもわかるとおり、なかなかの有名人らしい。


 少々興味を引かれた二人は人垣を割りながら進み、アドナの顔が拝める位置までたどり着いた。


 大道芸人のアドナは、顔全体を白く染め、目の辺りを青く、目の下には涙のような模様をつけている。赤い鼻をもったこの男は紛れもなくピエロの格好をしていた。


「あの人がアドナさんか」

「なんだ坊主? アドナさんを知らないのか?」

「はい。世俗にはあまり詳しくないので」

「あまり詳しくない……って、アドナさんはここらへんじゃ知らない人はいないと思うんだが……まぁ、いい。あのアドナさんはな――」


 隣の親切なおじさんが教えてくれたことによると、アドナさん――本名を‘‘アドナ・キルエス’’という――は、王都【ハンデル】にて名を馳せる、流行真っ只中の大道芸人なのだそうだ。初めは本名そのまま‘‘アドナ・キルエス’’の名で活動していたのだが、誰が呼び始めたのか、現在は親しみを込めて‘‘アドナさん’’と呼ばれ、それを気に入った彼自身もその芸名で活動している。

 誰にでも覚えやすく呼びやすい呼び名に変えてからというもの、彼のその名は遠い地まで届くようになった。今となっては、‘‘アドナさん’’が呼び名の主流であり、本名を知らない人が大多数を占めている。


 さて、絶賛人気最高潮の彼が何故、王都【ハンデル】から遥か遠く離れた【グリンズ】に居るかというと、それは彼が現在王国ツアー中だからだ。日本でいうところの、いわゆる、全国ツアーのようなものだ。

 王国ツアーというのは、文字通り王国を巡りながら様々な場所でショーを開催するものである。王国ツアーは日本で行われる全国ツアーと似通ってはいるが、いくらか相違点がある。

 中でも最たるものとして、王国ツアーは王国全土を回るものであり、日本の数十倍の広さを誇る大陸を巡るものであるため、日本のように移動技術の発達していないこの世界においては、壮大な旅であることは言うまでもない、ということだろう。つまり、このツアーは移動に大半の時間を割かれることも踏まえて、数年に渡る、長期のツアーなのだ。


 話を戻すが、アドナは‘‘アドナさん’’という呼称の他にももう1つ、多くの人々によって呼ばれるものがある。


「それが――‘‘太陽の魔術師’’だ」

「‘‘太陽の魔術師’’、ですか。それはまた、何というか……随分と大層な名前ですね? 名前が売れているとはいえ、ただの大道芸人につけられるような二つ名ではありませんよ?」

「そりゃそうさ。そもそもアドナさんは、大道芸人である前に、Aランク(・・・・)の魔術師なんだからな」

「Aランク……ですか……?」


 突然飛び出してきた言葉に驚きを隠せない昴。そんな様子の昴を余所に、フェアは呑気に欠伸をしている。あまり、興味がないらしい。


「Aランクだなんて、本当にすごい方なんですね、アドナさんって」

「あぁ、すごいなんてもんじゃないぞ。何て言ったって、アドナさんは、()の御方に見入られたんだからな!」

「彼の御方……?」


 何やら、興奮してきた隣のおじさんが大声で言う。




「記入欄」ここから記入




 そんなわけで現在目の前にいるのが件の大道芸人アドナさんこと‘‘アドナ・キルエス’’である。


「あ、始まるみたいだ」


 広場に設営された間接ステージ中央に立っていたアドナが、両腕を大きく広げる。


「さてさて、皆々様。本日はお集まりいただき、ありがとうございます、ます。この‘‘アドナ・キルエス’’、全身全霊で技を披露いたします、ます。心ゆくまでお楽しみください、さい!!」


 そして、流行りの大道芸が始まった。



×××



「……〈炎蛇(フレア・ウィップ)〉」


 アドナが呟く――と同時に、地面から湧き上がるようにして炎の蛇がうねり出てきた。


 人の腕ほどの太さもある6匹の炎蛇は、アドナを中心にして周囲を廻る。


 そんな中で、ピエロ姿のアドナは、軽快なステップを踏みはじめた。


 軽快に滑稽なステップを踏み、腕をうごかし、ときどき体を回転させ、ダンスを披露する。


「……〈炎の演舞(フレア・ダンス)〉」


 周囲の炎蛇が幾本かの炎の筋になり、回転するアドナの周りを行きながら、天へと昇っていく。


 駆け上がり、頭上に集まった炎は1つに合わさっていく。


 1つになった炎は球を生み出した。


 かなりの体積を持っていた火球が、その場で回転しながら、しだいに小さく小さく圧縮されていく。


 やがて10センチ程の小粒になった。


 アドナのステップも苛烈になり、くるくると回転し、スピードもテンポも限界まで上がっていく。


「……〈太陽爆散(プロミネンス)〉」


 一瞬さらに小さくなった火球が一気に膨れ上がる。


 そして、アドナが止まり、足の裏を地面に打ち付けると同時――炎はそのまま爆発した。


 四散した炎は空中で煌めき、人の目を釘付けにする。


 まるで、太陽の始まりから終わりまでを見たような、そんな感覚、感慨を抱かせる。


 いつの世も人に力を貸し与え、また、力によって奪ってきた、炎の神秘を見せ付けられた。


 集った多くの人々は示し合わせたように、口を開けっぱなしで、空を行く炎の光を眺めている。


 昴とフェアも同じ様に見とれて、放心するなか、彼は呟いた。


 笑顔が張り付き、裂けているようにも見える口が、大きく、大きく引き裂かれ、割り開かれ、ニタリと笑った。


「――みぃつけたぁ、たあ」


 ねっとりと粘着質な視線は、昴に降り注いでいた。

これにて打ちきりです。これまで読んでくださった皆様には深く感謝申し上げます。


他作品【疾風迅雷の魔術師】の投稿日に関する情報は、続報をお待ちください。


ではこれにて。ありがとうございました。

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