人形遣いと??の話(5)
「まあ人間でないということだけわかっていてもらえればいいかな。詳細は秘密。おっと忘れていた。私は当然ながらね、人間になりたいんだ」
たのんだケーキを上品に食べながら言う。
「しかしこれがまあ無理な話でね。一体全体どうすれば人間になれるのか見当もつかないよ。理屈で生きていない私にとって理屈は意味をなさないしねえ。というわけで思ったんだ」
私としてはこのテーブル弁償しなくていいのか、するとしていくらくらいなのだろう?ということしか頭にない。
「自分と同じく理屈で説明できないやつを探して手伝ってもらえばいい。例が一つではどうしようもないからね」
「ひとまず理に叶っているけど、私と社さんじゃタイプが違いすぎると思うよ?」
特殊能力を持った人間と人間ですらないものの共通点など普通でないということだけだと思う。
「まあいないよりはいい」
ひどい言われようだ。
「それに共通点はないでもない。」
ポツリと呟きにやっと笑う。
「ちなみに他にも三人いる。手口さんが五人目ということだな」
「そんな打ち切り臭のする少年漫画みたいなこと言われてもなあ」
どこの異能力者学園バトルだよという感じだし。
「いやバトルなんてしないけどさ。私たち四人の願いは唯一つ、普通の人間になることだ」
真剣な眼差しで彼女は言ったが、いささか滑稽さは否めない。
私は別にそこまで本気でこの力を消したいわけでもないから。
孤独は慣れちゃってる感あるし。
「それではバトル展開から推理展開にするとしよう」
社さんはケーキを食べ終わり、コーヒーを啜りながら言った。
ブラックである。
「サッカーボール事件は知っているだろう?」
「え、うん。いやなんで急に?」
別に推理展開を望んでいるわけではないのだけど。
「いやわからないかい?私は君が思っている以上に君を必要としているのさ。きみはこれまでの約十五年間自分以外の人間離れした人間に会ったことがあるかい?」
「ないけど」
「そう、つまり私にとって君はとても希少な仲間候補なんだ。機嫌を損ねたくはない」
ならその尊大な口調を直せ。というわけにもいかないのだろう。彼女は自分を偽れるタイプではなさそうだし、思えばこの話をするだけには高級すぎるカフェももてなしと思えば得心がいく。
「まあそういうわけでね。問題だ。そのサッカーボール事件の犯人は誰でしょう」
Whodunit
誰が犯人なのか。
「ひとまず体育教師ということはわかるんだけど、それ以上はわからないな」
「うん?まあそのくらいが妥当な推理力なのかな?いや普通ならともかく君には答えのようなヒントが用意されているじゃないか」
「答えのような?」
はて、なんだ?私にだけ?いや、それはない。私を含めた少数にヒントが与えられていると考えるのが普通かな。
私、サッカーボール泥棒、体育教師、ああ。
「簡単すぎたね。こんなの推理小説にしたらひどくバッシングを受けそう」
「その通りだ。では犯人は?」
「私の体育の先生」
極めて簡単な理屈で、いや理屈でもない。もう答えは出ていたのだ。私自ら言っていた。体育の先生の下手なサッカーが見たい、と。
それを先生が快く思うはずもない。そこでサッカーボール泥棒だ。まあ計画通りサッカーの授業は中止。先生は醜態を晒す必要はなくなった。
「手口さんのお望みとあらば証拠もお見せしよう」
社さんは嬉しそうに笑った。
「サッカーができないくらいで半べそになる教師なら大事になったのにビビって今夜にでもサッカーボールを返しに来るだろう。そこを押さえようではないか」
「社さん嫌いじゃないよ」
さあ、楽しくなってきたな。