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ドーナツが世界を救った話。

作者: 尾野建

夢に出てきたので書きました。

その少女はある日突然やってきた。

頭の二本の角を振りかざし、口から火を吹き、高らかに叫んだ。


「人間共を滅ぼす! 手始めに貴様からじゃ!」


少女は龍だという。人間は自分を敬うことを忘れて、勝手に山を切り崩したり、湖を埋めたりしたので、我慢の限界がきたとのこと。

荒れ狂う少女に、人間を代表し、謝罪の意を込めて、献上したのがミスドのフレンチクルーラーである。

お気に召したらしく、人間を滅ぼすのは思いとどまってくれた。

人類はドーナツによって救われたのである。


だが……



今日も今日とて教科書を開き、勉学に励む。


勉強が大好きなんて奴はいるか?

俺は嫌いだ。けれど色々工夫して良い成績を取るため頑張っている。

例えば、俺は勉強に取り掛かるとき、はじめの数分間に一番集中力を使う。

なので、最初の数分間は死ぬ気で集中する。集中できれば、あとは比較的楽に勉強に取り組める。

そう、最初の数分間に集中できれば。


「なぁ童。一緒に“みすたあどおなつ”に行かぬか?」


さぁこれから勉強を始めようという時に、居候にこう言われた。

少女は、はじめてドーナツを食べて以来、ことあるごとにドーナツを食わせるよう要求した。

いつもは一緒にミスドに行き、買い与えているが、テストが近く、勉強をしなければならない時期である。

俺は断った。すると、彼女は頬をぷくりと膨らませて、駄々をこねはじめた。

面倒なので無視をしたが、だんだんそうもいかなくなってきた。


鉛筆を動かそうにも腕が動かない。

なぜなら、少女が俺の腕を引っ張って離さないからである。抵抗して勉強しようにも相手は人外なので力で勝てるわけがない。


「無視をするなぁ! 余に無礼じゃぞ! 」


今度は脇腹を角でつつき始めた。どんどん駄々がエスカレートしている。

流石にたまりかねて無視をやめ、説得にかかる。


「あのさ。俺勉強しているの。来週テストなの。わかる?」

「そんなもの余の空腹に比べたら些細なことだわ!」

「空腹って……。さっき昼飯食っただろ」

「足りぬ!」

「お米を四合ほどたいらげてなかったか?」


少女はつつくのをやめて、今度は抱きついてきた。

「お、おい?」

戸惑っている俺に構わず、少女は上目遣いにおねだりをし始めた。

「お願いじゃ」

可愛い女の子の上目遣い。思わず屈しそうになるが……

「ダメなもんはダメ!」

俺は絶対に屈しない!

少女はパッと俺から離れ、唇を尖らせ、言った。

「しかたない。この辺一体の人間を食べるか……」

「よしミスドに行くぞ!」

屈してしまった。

人命には変えられない……。



財布を持ち、出かける準備をする。

「ほら、帽子」

麦わら帽子を差し出す。外出の時は角を隠すため、コレをかぶせることにしてある。

「うむ。苦しゅうない」

といって少女は頭を差し出す。

俺は帽子を、少女は頭を互いに差し出したまま膠着する。

先に少女が口を開いた。

「どうした? はやくしろ?」

「いや、自分でかぶれよ」

「なに? 余の手を煩わすのか? 貴様の“きょうかしょ”とやらをすべて炭にしてやっても……」

「はいどうぞ!」

「うむ」

麦わら帽子をかぶった少女はニコリと笑った。

角が帽子を破って飛び出てはいるがないよりはましである。


「いらっしゃいませー!」

ミスドに到着した瞬間、彼女はショーウィンドウにへばりつき、ドーナツを食い入るように見ている。

「絶景かな! 絶景かな!」

口からよだれを垂らしてドーナツを物色する少女。ショーウィンドウが液体まみれになっているが、店員は営業スマイルを崩さず、にこやかに対応した。

「何になさいますかー?」

「全部」

「はい?」

「店のどおなつ、全部じゃ」

冗談な物言いではなく、本気である。

店員のスマイル崩れる。助けを求めるように、俺を見てきた。

「ははは、冗談ですよー。フレンチクルーラー二つで」

「ちょいとまてい!」

少女が不満そうにこちらをみてくる。

「なんだよ?」

「童よ。主は二つで余が満足するとでも……?」

「じゃあ一個も買わないぞ」

「む……、しかたあるまい。ゴールデンチョコもつけるなら譲歩しよう」

「はいはい」

俺はためいきをつきながら追加注文をした。

店員さんはクスと笑い

「可愛い妹さんですね」

と一言。

コレを聞いた少女は頬をぷくっと膨らませ、言った。

「そこなおなごよ! 我がこの童の妹? こやつの下だと!? ふざけるな! 我はほこり高き龍。生まれ出て百余年。年齢的にはむしろ姉だほろぶおごおっももっ!?」

少女の口を抑えて黙らせ、ごまかす。

「ははは、ちょっと妄想癖があるやつでしてー」

「むーむー!」

少女が抗議するが、耳元で必殺の言葉をつぶやく。

「一ヶ月ドーナツ抜きにするぞ」

ピタリとおとなしくなった。そんなにドーナツ好きか。



「ん〜♪ 長いこと生きてきたが、やはり“どおなつ”ほどうまきものは今までに出会ったことがない!」

「良かったな」

「うますぎて飛んで逝きそうじゃ」

「飛ぶなよ」

ほんとに飛ぶから始末が悪い。

「て、おい。お前それ何個めだよ」

「ん? 三個目じゃが?」

「それ俺の分。お前は二個も食ったんだからもういいだろ?」

途端彼女の目のハイライトは消え、全てに絶望したように黒いオーラを発し始めた。

「どおなつ……」

「わかった。あげる! あげるから! 人類滅ぼそうなんて考えないでくれよ!」

「おおー! もちのろんじゃ! どおなつがある限り人類は滅ぼさん!」

少女はもぐもぐと幸せそうに口に入れた。




今日も人類は救われた。


だが俺の成績は救われなかった。


猫耳娘とか狐娘とか犬娘とか山ほどあるのに、龍娘ってあんまりみない…。僕は大好きなんですけどね。

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