未来の兵器と馬鹿と廃屋
一応シリーズモノです。
3作品目にあたりますので初めての方は一話目から目を通していただけると楽しんでいただけるかもしれません。
雨笠はじめは一先ず手近な椅子を手に取るとみちるの横にそれを置き、自分は壁に寄りかかった。
廃屋の中は月明かりが射し込み、幻想的な雰囲気を纏っている。
ただ、一緒にいるのが恋愛感情など微塵も沸かない幼馴染と自称未来から来た露出狂ではムードもくそもないわけで。
とりあえずはじめが置いてくれた椅子に腰掛ける。
「ありがと」
「おう、で、この露出狂は一体何者なんだ?」
はじめが目の前に立つ大男を指差してこっちを見る。
「えぇっと・・・私が道歩いてたらこの人がぶつかってきて服を取られそうに・・・」
「それは知ってる。 んでそこの露出狂にお前のお父さんの服をくれてやったってわけだろ?」
そう、渡した父の服は思いのほか小さすぎたようだ。ジャケットの下に着たシャツに描かれた愛らしいクマのプリントはマッチョの化身に引き伸ばされてムンクの叫びのようになっている。
今更ながらに気づいたけど、あれはパパが結婚10年目にママからプレゼントされた服だった。
どうしよう、パパが帰ってきてからあの服を見たら・・・。
ママの好きなクマのキャラクターがムンクの叫びに変身していたらきっとパパもムンクになっちゃう。
正直に事情を話せば分かってくれるかな。
自称未来の露出狂が服を欲しがってたので渡しましたと。
・・・きっとパパは卒倒するか私を病院に連れていくよね。
「何急に物思いに耽ってんだよ」
はっと現実に引き戻されるとはじめが目の前で手をヒラヒラさせながら心配そうにこちらを見ていた。
「あっ、いや、なんでもないよ・・・」
今度同じ服を買ってこようと心の中で決めると、ひとまずは目の前の問題に対処することにした。
「あっ、そうだ!この人未来から来たとかなんとかって言ってたよっ!」
「で、それが全裸とどう関係があるのよ? どっかの映画みたいにタイムトラベルすると裸になっちゃうとか、そういうわけ?」
「それ、私に聞かないでよ・・・」
まさにごもっともだ。 はじめは仕方なく大男と話をすることにしたようでくるりと向き直る。
「えーっと、名前は?」
「私はH-822型 HH422378だ」
「エイチハチ・・・なに?」
「H-822型 HH422378だ。私の身体パーツ一つ一つにこの製造番号が刻印されている。」
「つまりお前のその、股間のパーツにもHなんちゃらってのがついてんのか?」
「そうだ」
「みちる。 こいつの言うHの意味が分かった。 こいつはエッチで変態だ。おまけに変人」
「人間型と言う意味だ。 お前の脳細胞をスキャンしてみたが、常人のそれよりも遥かに少ないようだ。 この状況を把握する理解力は、"ない"だろう」
「じゃあ試しにいくつか言ってみろよ」
「2だ」
「な、なんという侮辱」
はじめは撃沈されたようだ。
がっくりと膝を折って項垂れたまま動かない。
「ちょ、ちょっとはじめ!間に受けてる場合じゃないってば!」
はじめは暫く復活する気配がなさそうなので、仕方なくみちるもこの大男との言葉の最前線に立つことにした。
「とりあえず、もう一度最初から聞くけど何の目的で来たの?」
「私は30年後の未来からやってきたマシーンだ。 機械軍の兵器だったが、人間に捕獲された後リプログラムされ、送り込まれた」
(耐えなさい私、細かいことは聞かないの)
「目的はとある重要な人物の保護及び、その人物達を狙う為に送り込まれたマシーンを破壊することだ」
「ふーん・・・」
ここまで聞いて思わず当然の疑問を口に出してしまった。
「でもあなたって全然ロボットっぽくないね」
「証拠が必要か?」
「うんまぁ、できれば・・・で、いいかな・・・」
「お見せしよう」
すっくと自称未来のマシーンが立ち上がる。
動きは滑らか。ロボットぽくない。
ゆっくりと歩きだす。
自然で滑らかな動き、今のロボットじゃとても無理そう。やっぱりロボットぽくない。
柱の前でピタリと止まる。
やっぱりロボットっぽくない。
上半身を仰け反らせて、溜める、溜める。
見事な仰け反り、ってかなんかこれすごく嫌な予感がする・・・。
ベギョッ
ああ、やっぱり、やっちゃった。
柱が豆腐のように砕ける。
おお、行き足がついた体はそのまま・・・
ドゴッ、ベギッ、ガチャンバギバギ、ガタガタバッタン。
壁に飛び込んで見えなくなったあともまだこの騒音。
いくらマッチョでも勢いがあるというだけで家の中を粉砕してまわることなどできないだろう。
って家崩れるんじゃ・・・。
そう思うと急に怖くなってきた。同時に体が走り出す。
玄関前の廊下あたりではじめを置いてきてしまったことに気づいたものの今更戻るわけにもいかない。
玄関を走り抜ける。と、そこにはじめが立っていた。こちらを見ようともせず、じっと家の方を見ている。
「わ、私を置いて真っ先に逃げるなんてヒドイじゃない!」
自分の事を棚に上げてみちるは叫ぶ。
「ふっ、俺はみちるが無事に出てくるって最初から分かってたぜ?」
向き直ったはじめはニヤっと笑う。きっと本人は爽やかな笑顔をしているつもりなので、あえて触れないことにした。
ただ、さすがにはじめの意味深な発言だけは気になる。
「まぁ家自体大丈夫みたいだけど・・・分かってたってどういうこと?」
「お前って牡羊座だったろ。 今日の星占いで一位だったのさ。 ラッキーカラーも青だって。」
「そんな理由で私が無事だと思ったワケ?」
「おう、ラッキーカラーの青と白のストライプなんていまだに可愛いパンツ履いてんだっぷぉ」
ズムッッ!
そんな音が聞こえた気がした。
はじめの言葉を途切らせたのは鳩尾に跳ね上がるようにして侵入した右拳だ。
はじめの肺に入っていた空気はその全てを口から強制排出させられる。といっても、ここからが地獄の始まりだ。
綺麗に入ったその拳ははじめの体を数ミリ浮き上がらせるとその衝撃を存分に内蔵へと放出した。
しかし"致命の一撃"の痛みというのは、いつも一泊間を置いてから洪水のようにやってくる。
はじめには本能的に覚悟を決めることしかできなかった。
不意に、いや不意でなくてもこの一撃はキツい。
「あ、あんた人の下着勝手に見てんじゃないわよっ!」
恥ずかしさで真っ赤になりながらはじめに怒鳴る。
「だ、だ・・て、ひし、ぶり・・・で、つ・・い・・」
何かの幼虫みたいに丸まって身体をブルブルさせながらはじめは必死に言葉を吐き出す。
「いつ見たのっ!」
「ぇぅ・・・なかで・・・ダゥん・・しだあと・・・れすぅ・・・」
(こいつはダウンした後、私が会話してる最中制服の中を覗きやがったのね)
ある意味男の下心に感心してしまう。絶対に許せないけど。
「相変わらずはじめって馬鹿ね・・・」
「私が機械だと理解できたか?」
そうこうしている内に自称機械がやってきた。
家の中を転げ回っていた割には軽傷みたい。
「まぁ、大体は・・・」
「そうか。 センサーによると、付近の住民24名が活動を開始したようだ。 私のデータでは人間は昼行性だ。 データに差異が生じている、データアップデートするべきか」
「それはあんたのせいで目が覚めたのよ!」
付近の住民に目撃され、3人が家を半壊させました。なんて言われれば、警察沙汰になってしまう。
とりあえずここから逃げなければ女子高生人生が最悪の結末を迎えてしまう。
それだけは避けなければいけない。
「はじめっ!早く起きなさい!逃げるわよっ!」
「・・・」
いつの間にかはじめは痛みに抗うのをやめて失神することにしたようだった。というか死んでないといいけど。
こんな状態のはじめを置いていけば余計に事態が悪化しかねない。
「ほら早くはじめを担いで! さっさとここから移動するの!」
「了解した」
自称機械が言われた通りにはじめを片手で抱え上げると、二人は夜の闇を駆け抜けていった。
まぁ言わずもがなで今更なんですけどもろターミ◯ーターのパロディです。
しかし文章量が増えず、語彙も増えない。。。
精進しなければ
ちなみに1箇所だけ昔あったドラマのネタを使わせて使わせて頂きました。
これが分かる方、きっと20歳後半以降でしょう(笑)
NHKの深夜で夜遅くに3話続けて見た人たちってこのサイトに何人いるんでしょうね