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『ステージは、まだ遠くて。~美羽、アイドル科はじめます~』  作者: 優貴(Yukky)


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第1章 「合格通知と、不安のはじまり」 第1話「アイドル科の制服」

入学式の朝。

制服のリボンを結ぶ手が、うまく動かない。

「落ち着け、私……」

鏡に映る自分は、どこにでもいる普通の女の子だ。

特別可愛いわけでもない。

スタイルが抜群なわけでもない。

(本当に、私がアイドル科なんて……)

リビングに行くと、お母さんが優しく笑った。

「美羽、似合ってるよ」

「……ほんと?」

「うん。夢に向かう顔してる」

その言葉に、胸が少しだけあたたかくなる。

シャイニングスター学園は、想像以上に大きかった。

ガラス張りの校舎。

広い中庭。

敷地内にはダンススタジオがいくつも並んでいる。

「すご……」

思わず立ち止まる。

周りには同じ制服の子たち。

みんな自信に満ちていて、キラキラして見える。

(場違い、かも……)

心臓がドクンと鳴る。

そのとき。

「ねえ」

背後から声がした。

振り向くと、長い黒髪を揺らす女の子が立っていた。

透き通るような肌。

すっと通った鼻筋。

まるで雑誌の表紙みたいな存在感。

「一年生?」

「は、はい!」

声が裏返る。

「黒瀬玲奈。よろしく」

差し出された手。

私は慌てて握る。

「星野美羽です!」

玲奈は私をじっと見つめたあと、小さく微笑んだ。

「緊張してるでしょ」

「えっ、わかりますか?」

「うん。肩、ガチガチ」

思わず自分の肩を触ると、本当に硬い。

「大丈夫だよ。ここにいるってことは、受かったってことだから」

その言葉は優しかったけれど、どこか余裕があった。

(この子、きっとすごい人だ)

入学式が終わり、教室に集められた私たち。

担任の先生が淡々と言う。

「これから実力テストを行います」

ざわつく教室。

「今日からですか!?」

「準備してないんだけど……」

先生は表情を変えない。

「ここはアイドル科。スタートラインは全員同じではありません」

胸がぎゅっと締めつけられる。

ダンスルームに移動すると、大きな鏡が壁一面に広がっていた。

音楽が流れる。

「振り付けは今から覚えてもらいます」

(む、無理……!)

周りの子たちはすぐに動き出す。

体が軽い。

動きがきれい。

私はワンテンポ遅れる。

足がもつれる。

鏡に映る自分だけ、明らかに不格好だった。

(やっぱり、場違いだ)

悔しさで目が熱くなる。

そのとき、隣で踊っていた玲奈が小声で言った。

「右足、もう少し外」

「え?」

「焦らなくていい。リズムだけ聞いて」

玲奈の動きを真似する。

呼吸を合わせる。

音楽に耳を澄ませる。

少しだけ――ほんの少しだけ、体がついていった。

曲が終わる。

私は息を切らしながら立ち尽くした。

先生が評価を告げていく。

「黒瀬、A」

「……ありがとうございます」

やっぱり。

「星野」

ビクッとする。

「基礎不足。C」

胸が、ズキンと痛んだ。

わかっていた。

でも、言葉にされると苦しい。

放課後。

誰もいなくなったスタジオで、私は一人鏡の前に立った。

「……悔しい」

涙がこぼれる。

でも、逃げたくなかった。

夢を見たあのステージ。

あの光。

(あそこに立ちたい)

音楽をスマホで流す。

ぎこちなくてもいい。

笑われてもいい。

私は、もう一度踊り始めた。

汗が落ちる。

足が震える。

それでも止まらない。

ガラス越しに、誰かが見ていることに、私はまだ気づいていなかった。

星野美羽の、本当の挑戦が――今、始まる。

――続く。

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