Chapter5: 虚構と実在と終局
あの人の料理が僕の嘘でない理由…それは、僕の五感にある。あの人を思い出しながら、この残酷な現実を生き抜く方法。…それは、つまり…
「僕の手であの人の手料理を作り出す。これこそ、僕があの人と『永遠に生きる』ための現実的な手法だろう。」
どんなに時間がかかっても、いや、むしろ、時間をかければかけるほど、あの人といた過去の日々が、美しい薔薇の如く咲き誇らせればよいのだ。そうだ。僕自身がその日々を作っていけばよい。そうすれば、あの"Vertual wife"が"Real life"における「現実の伴侶」となるのだ。
そうだ。あの二人にチロルチョコのお礼をしなければ。……ホワイトデーが迫っていたのだ。ちょうどいい機会ではないか。贈り物は、あの人に教えてもらった(…いや、作ってもらったというべきか?)チョコレートケーキにしよう。あまりサイズが大きすぎても気を遣わせてしまうかもしれないから、可愛らしい大きさにするか。
「…この前はありがとうございました。これ、お礼です。良かったら、食べてください。」
「…なんでそんな上機嫌なんだよ」
「うまそーじゃん!…ラッキー!」
そうだ。もう進級するってのに、名前聞き忘れてたよ。まあいいや、チロルちゃんたち(仮名)は喜んでくれてたようで良かった。きっとあの席にいる茜さんは、どこかで微笑んでいるはずだ。
不思議な話だが、ここ最近になって代わったことは、家鍵が1つ無くなっていたことと、彼女の手書きレシピが玄関に置かれていたこと。
「…なんだ、そこにいたんですね。」
毎月28日になると、僕は決まって、レシピ通りにクッキーを作る。この「28」という数字は、彼女の出席番号。あのクラスに、彼女がいたという確かな証拠たらしめるために。僕は、目の前にいる"Vertual wife"のために、生きると決めたのだ。
さて、明日は何を教えてもらおうかな。
以下、エピローグです。
3年前に著者が一人暮らしを進めていくなかで感じていた困難の一つが、食事でした。「こうであってほしい」と思っていること、「こうであっては自分が成長しない」と思っていること…いろいろな考えが私の実体験として交わっていきました。誰かに見られていようと、誰にも見られていまいと、私の生きてきた軌跡を、何らかの形で残したい。それが執筆に至った経緯です。




