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Chapter4: 幻滅と現実と限界

 理想の生活がようやく私の目の前に現れた。だが突然、霞の如く、霧の如く……それは手で掴もうにも掴めなくなってしまった。幸せは夢のようなもの。人がつくと、僥倖の時間は儚くなるのだ。


 あの人がやってきてから1ヶ月後。そしてそれは、あの人が去ってから1週間後だった。あの人がどうなったのか、誰もわからないらしい。

 「……それで、先生。あの人は、叢崎さんはどうしたんですか?しばらく休みが続いているようですが。」

 あの無表情な先生も、この質問には苦い顔をしていた。どうやらあの人は唐突に姿を消してしまったようだ。でも、普通だったら、せめて先生たちだけには、彼女自身かその関係者から何らかの連絡はあったんじゃないか…?


 「おう。ツラ貸せよ」

 ぶつぶつ考え事をしている最中だった。ガラの悪そうな女が2人、僕の邪魔をしにきたようだ。

 「…何でしょう?」「……行くぞ。上だ。」

 二人の人差し指は、上を向いている。嫌な予感がするが、これまでの経験上、このイベントは避けては通れねえようだ。……ダメージを最小限に抑えるしかねえな。


 「時間がないので、手短にお願いします」

 「お前、あの叢崎って女とデキてんだろ?」「噂では『あ〜ん』までしてもらったんだってなぁ?…アツアツやんかぁ」

 なんだ?二人は僕とあの人との関わりをからかいに来たのか?……だが、こいつらは有害な存在ではない。


 「もうあの人はいませんよ?あの人の居場所を突き止めるのなら、僕は一切役に立てません。残念ながら」

 「あーあー、拗ねちゃって」

 「しょうがないから、私たちが叢崎ちゃんに代わって……ほら、やるよ」

 バッグから出てきたのはチロルチョコ3個。ラベルは初めて見るものばかりだ。どうやら、全てオリジナルのようだ。


 「……これ食べちゃうとあの人のことを裏切ったことになるのかな。」

 そういう気持ちもあった。だが、どうしても疲れが溜まっていた。一刻も早く脳に糖分を供給しなければならないのだ。……これであの人が私を嘲笑して、もう目の前に来なくなったとしても、それはそれで結構なこと。むしろ、夢の淡い味を教えてくれて感謝せねばなるまい。

 ……お金もないし冷蔵庫の食べ物もほとんど残っていない。いまだに僕はあの幻影を追い続けているのだろうか。幸せだった日々からどん底に突き落とされていく、そんな感覚だ。だが、どん底についてしまえば、逆に気持ちに整理がつくものだ。文字通り「落ち着く」のである。

 チョコレート3つでも、大したものじゃないか。水だけで生き凌いできた日々を考えれば、どうということはないはずだ。あの幸せな日々が幻だったというのなら、せめて今はこの面白くない現実を、少しでも面白く生きてやろうじゃねえか。あの人はいなくなったけれど……なぜか僕は、生きる気力に満ち満ちていた。

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