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EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―
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第2章 越えられない階層

オフィスが、少し静かになり始める時間帯だった。


周囲では、キーボードの音が一定のリズムで鳴っている。

誰もが、いつも通りの業務に戻っていた。


――いつも通り、のはずだった。


涼平りょうへいは、自分のモニターに表示されたログを、食い入るように見つめていた。


(まずは、アクセス履歴だな……)


プレゼン資料が保管されていたディレクトリ。

編集履歴。

閲覧ログ。


一つ一つ、慎重に確認していく。


――不審な点は、ない。


少なくとも、表層には。


「……ここから先か」


涼平は、カーソルを動かし、

さらに深い階層へと進もうとした。


だが。


《アクセス権限がありません》


画面に表示された無機質な文字が、進行を遮る。


「……やっぱりか」


小さく息を吐く。


社内システムは、

役職や担当によって、明確に権限が分けられている。


涼平の立場では、

これ以上奥に入ることはできない。


(……別のルートは)


諦めずに、

バックアップログ、

サーバー同期履歴、

過去の一時保存データ。


迂回できそうな経路を、いくつも探る。


だが。


《権限がありません》

《アクセスが制限されています》


同じ表示が、何度も現れた。


「……くそ」


思わず、声が漏れる。


(やっぱり、社内で調べるには限界がある)


違和感は、確信に近づいているのに、

それを裏付ける“証拠”に辿り着けない。


椅子に深く座り直し、

涼平は天井を仰いだ。


――どうする。


そのとき、

ふと、別の顔が頭に浮かんだ。


落ち着いた声。

鋭い視線。

そして、どんな状況でも冷静にログを読む後輩。


(……しゅうと、なぎ


クロノス時代。

何度も、同じように壁にぶつかり、

それでも一緒に突破してきた。


(……いや、待て)


個人的な感情で、

勝手に外部に相談するわけにはいかない。


これは、もう――

会社の問題だ。


涼平は、決意を固め、席を立った。



◇◇◇



課長席の前で、一度だけ深呼吸をする。


浅見あさみ課長、少しお時間いいですか」


浅見葉子あさみようこは、資料から顔を上げた。


中里なかざとくん? どうしたの」


「プレゼンの件なんですが……」


涼平は、これまでの調査内容と、

“酷似している”と言われた違和感、

そして、社内調査の限界について、簡潔に説明した。


「……正直に言います。

 資料が、外部に流出している可能性があると思っています」


浅見課長は、すぐには返事をしなかった。


数秒、考え込むように視線を落とし、

やがて静かに口を開く。


「……私もね

 “酷似している”って言葉、引っかかってたの」


涼平は、顔を上げる。


「似ている、ならまだわかる。でも――

 『酷似』は違うわよね」


浅見課長は、はっきりと言った。


「社内だけで調べるには、限界がある。

 外部の専門会社に、正式に調査を依頼しましょう」


「……いいんですか?」


「いいも悪いもないわ。

 これは、会社として確認すべき問題よ」


浅見課長は、すぐに決断した。


本瀬もとせ部長に話を通す。

 稟議を上げて、正式に調査依頼を出しましょう」


涼平は、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


席に戻る途中、

胸の奥に溜まっていた重さが、少しだけ軽くなった気がした。


――1人で抱えなくていい。


だが同時に、

この調査が、思っている以上に大きなものになる予感もしていた。


そして数日後。


株式会社リアライズは、

システム調査および再構築の依頼先として、

1社の名前を選ぶことになる。


アークシステムズ。


かつての仲間がいる会社へ――

運命の歯車が、静かに回り始めていた。

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