第14章 ぽかぽかの帰る場所
事件が終わってから、
リアライズのオフィスは、少しずつ元の空気を取り戻していた。
噂は、消えるのも早い。
それ以上に、
仕事が進めば、人は前を向く。
涼平はというと――
相変わらず、だった。
「おはようございます!
今日、天気いいっすね〜」
誰にでも声をかけ、
誰にでも同じ調子で笑う。
一度失った信用は、
時間がかかる。
けれど、
涼平の人柄は、
それを補って余りあるものだった。
「中里さん、次の案件なんですけど……
お、いいっすね!一緒に考えましょう!」
自然と、人が集まる。
(……ほんと、変わらないな)
そう思いながら、
涼平自身も、少しだけ肩の力を抜いていた。
◇◇◇
その夜。
ぽかぽか邸のリビングには、
いつものメンバーが揃っていた。
テーブルの上には、
柊が作った料理。
「今日は軽めでいいだろ」
そう言いながらも、品数はしっかりある。
「軽めとは……?」
凪が首をかしげる。
「柊先輩基準、ズレてますよね」
「うるさい」
環は、並べられた料理を見て、
にこっと笑った。
「おいしそうです。
今日のごはん、ぽかぽかです」
「……ぽかぽかか……ははは……環らしいな……」
と柊。
「ぽかぽか……?」
首をかしげる涼平を見て、
すかさず凪が言う。
「最高評価です。環さん語で言うと、最上級」
「そうなのか……?」
首をかしげる涼平。
「そうだな……」
柊はそう言いながら環の頭を撫でる。
「あーはいはい!はじまりましたよ〜2人のイチャイチャ〜」
「柊、おまえ、人前で、そういうことするんだな~意外〜」
「ずっと環さんに話しかけられなかったヤツだとは思えないな!ははは……」
涼平が言いながら大笑いし、つられて凪も笑う。
「柊先輩、家でも職場でもイチャイチャしてますよ〜」
「……なんだよ……2人とも……いいだろ?」
「いやさ」
涼平は、グラスを手にしながら続ける。
「仕事では完璧なのに、こういうとこあるんだな……」
「ですね〜、柊先輩、環さんのことになると最強になりますから……」
「おまえらに言われたくない」
「それ〜!」
凪が笑いながら乗っかる。
「柊先輩、詰められると弱いですし」
「詰められてない」
「顔、赤いですよ?」
柊は、片手で顔を覆った。
「……もういいだろ」
その様子を見て、
環がくすっと笑う。
「柊、かわいいですね」
「環まで言うな」
「事実ですから」
涼平は、
そのやり取りを眺めながら、
静かに言った。
「……ありがとな」
3人の視線が、涼平に向く。
「俺さ、
今回、正直、怖かった」
少しだけ、声が低くなる。
「疑われて、
味方がいなくなるかもしれなくて」
「でも――」
涼平は、環を見る。
「ちゃんと見てくれる人がいた。
それだけで、救われた」
環は、少し驚いたように目を瞬かせてから、
ゆっくり頷いた。
「信じる、というより……見て、感じて、考えただけです」
「それが、すげーんだって」
涼平は、照れたように笑う。
凪が、グラスを持ち上げた。
「じゃあ。
事件解決と、名誉回復と」
少し間を置いて、
「ぽかぽかの勝利に」
「なんだそれ……」
柊が言いながらも、グラスを上げる。
「でも、悪くない」
グラスが、軽く触れ合う。
高い音ではない。
でも、あたたかい音。
◇◇◇
帰り際。
玄関で靴を履きながら、
涼平がふと振り返った。
「……また、来てもいいか?」
「当たり前だろ」
柊が答える。
「泊まってく?」
凪が冗談めかして言う。
「いや、それは遠慮しとく」
涼平は笑って、
最後に環を見た。
「環さん。
ありがとうな」
環は、少し照れながら答える。
「こちらこそ。
無事に終わって、よかったです」
ドアが閉まる。
静かになったリビングで、
柊がぽつりと言った。
「……終わったな」
「終わりましたね」
凪が伸びをする。
環は、窓の外を見ながら、
小さく微笑んだ。
「でも、ちゃんと戻ってこれました、みんな」
柊は、その言葉を聞いて、
環の頭にそっと手を置く。
「……ああ」
事件は終わった。
けれど、
ここは、終わりじゃない。
間違えても、
傷ついても、
戻ってこられる場所。
ぽかぽか邸は、
今日も、静かに灯っている。
それぞれの“正しさ”を、
そっと受け止めながら。




