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EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―
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第13章 正面から、もう一度

リアライズの会議室には、

以前とは少し違う空気が流れていた。


重苦しさはない。

けれど、浮ついた感じもない。


失敗を一度知った人たち特有の、

静かな集中。


ホワイトボードの前に立つのは、

中里涼平なかざとりょうへいだった。


「――今回のプレゼンは」


涼平は一度、深く息を吸った。


「誰かのアイデアを“借りない”

 誰かの努力に“乗っからない”」


そう言って、少し照れたように笑う。


「当たり前のことを、

 当たり前にやります」


誰かが、ふっと息を漏らした。


なぎは腕を組みながら、

涼平の立ち姿を見ている。


(……いい顔してる)


しゅうは、何も言わず、

その様子を静かに見守っていた。


たまきは、資料の端を揃えながら、

小さく頷く。



◇◇◇



プレゼン資料は、

以前よりもシンプルだった。


派手な演出はない。

けれど――

一つ一つの意図が、はっきりしている。


「このイベントで、

 一番大切にしたいのは何か」


涼平は、

クライアントの目をまっすぐに見て続ける。


「“記憶に残る体験”です」


「驚かせることじゃない。

 競うことでもない」


「参加した人が、

 『来てよかった』って思えること」


その言葉に、

クライアントの1人が、静かに頷いた。



◇◇◇



質疑応答。


鋭い質問が飛ぶ。


だが、

涼平は逃げない。


分からないことは、

「確認します」と言う。


無理に盛らない。

誤魔化さない。


その姿勢が、

少しずつ、場の空気を変えていった。



◇◇◇



プレゼンが終わる。


画面が切り替わり、

ミーティングは一旦、終了。


会議室に残ったのは、

リアライズとアークシステムズの面々だけ。


「……どうだと思う?」


涼平が、少し緊張した声で聞く。


凪は、にっと笑った。


「勝ちに行くプレゼンじゃないですね。

 でも――信頼は、ちゃんと取れる」


柊も、短く頷く。


「無理がない。

 今の涼平に、一番合ってる」


環は、柔らかく微笑んだ。


「嘘がない、って感じがしました。

 聞いていて、ぽかぽかしました」


「……ぽかぽか?」


涼平が首をかしげると、

凪がすかさず言う。


「環さん語です。

 いい意味です」


「そうか……」

涼平は、少し照れくさそうに笑った。



◇◇◇



数日後。


クライアントから、正式な連絡が入る。


「今回のイベント。

 リアライズさんにお願いしたい」


その瞬間。


涼平は、

言葉を失った。


「……本当ですか?」


「はい。

 正直さと姿勢を、評価しました」


電話を切った後、

涼平は、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


誰に向けた言葉か、

自分でも分からなかった。



◇◇◇



その夜。


ぽかぽか邸。


テーブルには、

簡単な料理と飲み物。


「お疲れさま会、ですね」

凪が楽しそうに言う。


「派手じゃないけどな」

柊が肩をすくめる。


涼平は、

グラスを手にして、3人を見た。


「……正直さ

 今回、一番助けられたのは俺だ」


少し間を置いて、続ける。


「疑われて、追い込まれて、

 それでも、ちゃんと調べてくれた。

 信じてくれた」


環は、静かに首を振った。


「信じたというより……

 ちゃんと見ただけです」


凪も笑う。


「ログは、嘘つかないですし」


柊は、いつもの調子で言った。


「……それに

 涼平が、逃げなかった」


その言葉に、

涼平は、目を伏せて笑った。


「逃げられなかっただけだよ」


「それでも、立ってた」


凪が言う。


「それが、一番大事です」



◇◇◇



グラスが軽く触れ合う。


大きな音は立てない。


でも、

確かにそこにあったのは――


取り戻した名誉と、

積み重ね直した信頼。


そして、

正面から進むことを選んだ人たちの、

静かな強さだった。

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