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EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―
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第12章 失われた信用

崎山圭太さきやまけいたは、

その日もいつも通り、

クライアントとのオンラインミーティングに臨んでいた。


スーツの襟を正し、

表情は自信に満ちている。


今回のイベントプレゼンは、

社内でも「勝ち筋」と言われていた。


(これで――)


そう思った矢先だった。


画面の向こうで、

クライアント側の表情が、

わずかに変わる。


「……崎山さん。

 一点、確認させてください」


穏やかな口調。

だが、その声には余分な感情がなかった。


「こちらの企画案ですが、

 他社から提出された内容と、

 構成・演出・進行案が、ほぼ一致しています」


圭太は、

一瞬だけ言葉に詰まった。


「いえ……

 似た発想になることは、イベント業界では珍しくありません」


そう返しながらも、

胸の奥が、ひやりと冷える。


「その点も踏まえて、

 こちらで独自に調査を行いました」


クライアントは、

1枚の資料を画面に映した。


そこに並ぶのは、

比較された2つの企画案。


一致する構成。

同じ言葉選び。

同一としか言いようのない流れ。


「――これは、“参考”の範囲を超えています」


静かな断定だった。


圭太は、

喉が張り付いたように声が出ない。


「さらに、

 リアライズ社より、

 正式な調査結果が提出されています」


その言葉で、

すべてを悟った。


(……紗唯さい


「本件については」


クライアントは、淡々と告げる。


「当社として、

 崎山さん個人、ならびに

 御社の本プロジェクト参加を見送ります。


 今回のイベント契約は、剥奪とします」


圭太は、

何も言えなかった。


反論する言葉も、

取り繕う理由も、

もうどこにもなかった。


画面が暗転する。


その瞬間、

圭太は、

椅子の背にもたれかかった。


(……終わったな)


怒りも、悔しさも、

最初は浮かばなかった。


ただ、

自分が踏み越えた一線の重さだけが、

静かにのしかかってくる。


誰かを利用したこと。

依存を分かっていて、

止めなかったこと。


(勝ちたかっただけだ……)


そう言い訳をしようとして、

すぐに気づく。


それは、

誰に向けた言葉でもない。


自分自身に向けた、

空虚な言い訳だった。



◇◇◇



数日後。


業界内には、

あっという間に情報が広がった。


「シナプスデザイン、

 主要イベントから降板」


「不正流用の疑い」


信用は、

一度崩れると、

驚くほど脆い。



◇◇◇



その頃。


リアライズでは、

改めてプロジェクト体制の見直しが行われていた。


会議室で、

本瀬もとせ部長が静かに告げる。


「今回の件を受け、

 イベントプレゼンは、再度行います」


「改めて、

 正当な形で、勝ちに行く」


視線が、

涼平りょうへいへ向く。


「中里、このプロジェクト、

 中心に立ってくれ」


涼平は、

一瞬だけ目を見開き――

そして、笑った。


「……はい」


その笑顔には、

曇りはなかった。


「今度こそ、

 ちゃんと、正面から」



◇◇◇



一方。


紗唯さいは、

事情聴取を終え、

静かに席を離れていった。


責任は、

これから背負うことになる。


それでも――

誰も、彼女を責める言葉を投げなかった。


罪は、裁かれる。

だが、人は、切り捨てられない。


それが、

この場で選ばれた答えだった。



◇◇◇



失われたのは、

信用。


だが、

すべてを失ったわけではない。


次に残るのは、

「どう立ち直るか」という問い。


そして――

もう1つ。


奪われかけた名誉を、

取り戻す時間が、

静かに始まろうとしていた。

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