表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―
10/15

第9章 選んでしまった行動

リアライズのオフィスは、

いつもより静かだった。


残業する社員の数も少なく、

フロアの照明が、ところどころ落とされている。


紗唯さいは、自分のデスクで、

画面を見つめたまま、動けずにいた。


(……見られてた)


あのカフェでの視線。

穏やかで、怒りも敵意もないのに、

なぜか逃げ場を失うような目。


(あの人……)


胸の奥が、きゅっと縮む。


(大丈夫。

 私は、ちゃんとやった)


(誰にも、バレない)


そう言い聞かせるほど、

心は落ち着かなくなっていく。



◇◇◇



スマートフォンが、静かに震えた。


画面に表示された名前に、

紗唯は一瞬、迷う。


――崎山圭太さきやまけいた


ためらいながらも、

メッセージを開く。



---


 圭太:次の件、準備どう?

 圭太:今回、絶対に取らないとまずい


---



指が、止まる。


(……また)


胸の奥に、重たいものが沈む。



---


 紗唯:進んでる

 紗唯:問題ない


---



短く返すと、

すぐに既読がついた。



---


 圭太:助かる

 圭太:君がいると心強い


---



その一文が、

嬉しいはずなのに、

なぜか、胸を締めつけた。


(……私が、いないと)


(私が、やらないと)


気づけば、

もう一度、ノートパソコンを開いていた。


(……少しだけ)


(確認するだけ)


自分にそう言い訳しながら、

指をキーボードに置く。



◇◇◇



同じころ。


リアライズの会議室では、

なぎが、1人でモニターに向かっていた。


「……やっぱり」


低い声で、そう呟く。


ログの中に、

わずかな“揺れ”がある。


同じ権限。

同じID。

けれど――

使い方が、微妙に違う。


「……2人いるみたいだ」


凪は、画面をスクロールしながら、

慎重に痕跡を拾っていく。


(慣れてる動きと、慣れてない動き)


(同じ人間じゃない)


だが、

まだ断定はできない。


「……もう一段、必要だな」


凪は、

ログを保存し、

時間帯と端末情報を重ね始めた。



◇◇◇



そのころ。


紗唯は、

オフィスに1人残っていた。


誰もいないフロア。

自分の呼吸音だけが、やけに大きい。


(……これで、最後)


(これ以上は、やらない)


そう思いながら、

1つの操作を、終えようとした瞬間――


背後で、

エレベーターの到着音が鳴った。


びくり、と肩が跳ねる。


(……誰?)


思わず、画面を閉じる。


静かな足音。

誰かが、フロアに入ってくる。


(見られたら……)


心臓が、早鐘を打つ。


だが、

足音は、そのまま通り過ぎていった。


紗唯は、

その場に座り込むように、椅子に沈んだ。


(……危なかった)


それでも――

胸の奥に残るのは、安堵ではなかった。


(私……何やってるんだろう)



◇◇◇



翌朝。


凪は、

1つのデータを見つめていた。


「……見つけた」


ごく小さな、

しかし決定的な違い。


「端末……か」


同じID。

だが、

アクセス元の端末が、

一致しない。


凪は、静かに画面を閉じた。


(……これで、繋がる)


まだ、名前は呼ばない。

だが、

真実へ続く道は、

はっきりと見え始めていた。


一方で、

紗唯は、

自分が“選んでしまった行動”が、

すでに引き返せない場所へ

自分を連れてきていることに、

まだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ