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EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜Season11 ― 戻れる場所 ―
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プロローグ

スマートフォンの画面に表示されたURLを、

紗唯さいはしばらく見つめていた。


送ってしまえば、戻れない。

それはわかっている。


やってはいけないこと。

本当なら、止めなきゃいけなかったこと。


それでも。


---


 圭太けいた:これで次もいけるな。助かる


 紗唯:……うん


---


短いやりとり。

それだけで、胸の奥がきゅっと縮んだ。


彼が喜ぶ顔を思い浮かべる。

それだけで、迷いは薄れていく。


(大丈夫……)

(私の名前は使ってない)

(誰にも、わからない……)


自分に言い聞かせるように、

紗唯は最後にもう一度だけ画面を確認し、

URLを送信した。


――送信完了。


小さな通知音が、

静かに闇の扉が開いた合図のように響いた。



◇◇◇



その頃。


休日のアウトレットモールは、

買い物客で賑わっていた。


「……あれ?」


人混みの中で、

聞き覚えのある声が、しゅうを呼び止める。


「柊?」


振り向いた柊は、一瞬、言葉を失った。


「……え?」


そこに立っていたのは、

どこか懐かしい、変わらない笑顔。


「やっぱり!

 久しぶりだな、柊!」


「……涼平りょうへい?」


中里涼平なかざとりょうへいは、相変わらずの調子で笑っていた。


「何年ぶりだ?

 いやー、それにしてもさ……

 おまえ、なんか落ち着きすぎじゃね?」


「余計なお世話だ」


柊が苦笑する。


「柊先輩?」


後ろから声をかけたなぎが、2人を見るなり目を見開いた。


「え……あっ、えーーー!?

 涼平さんじゃないですか!」


「おお、凪!

 おまえもいるのか!

 相変わらずかわいい弟分だな〜」


「それ、褒めてます?」


「もちろんだって!」


そんなやりとりの少し先で、

雑貨店の前に立つたまきが、2人の様子を見ていた。


凪が振り返る。


「環さん、こっちです!」


呼ばれて近づいてきた環を見た瞬間、

涼平はぴたりと動きを止めた。


「……ん?」


環と凪が並んで立つ姿を見比べて、

涼平の頭の中で、何かが一気に噛み合わなくなる。


「……え?

 ……え?

 ちょっと待て」


1歩、2歩と近づきながら、涼平は混乱したように言った。


「凪。

 ……おまえ、彼女できたのか?」


「え?」


「いや、だってさ、

 そんなに楽しそうに一緒にいるし……」


柊が思わず吹き出す。


「おい……涼平」


「いやいや、待てって!

 だってさ、柊が昔クロノスで――」


そこまで言って、涼平は柊を見る。


「……あれ?」


柊は何も言わず、

すっと環の肩に手を回した。


「……紹介する。

 俺の妻、環だ」


「…………は?」


一拍。


「……つ、妻?」


凪が笑いをこらえきれずに言う。


「涼平さん。

 環さん、僕の彼女じゃないですよ。

 柊先輩の奥さんです」


「………………」


涼平の思考が、完全に停止する。


「……え?

 え?

 ちょ、待て待て待て」


両手で頭を押さえ、

涼平は一気にまくしたてた。


「だってさ!

 あの頃、柊がずっと気にしてた子だろ!?

 なのに凪と一緒にいて!

 え!?

 どういう世界線!?」


柊と凪は大爆笑だった。


「涼平、落ち着け」


「無理だろこれ!

 情報量多すぎる!」


環は、状況を理解したのか、

くすっと小さく笑った。


「……あの、驚かせてしまってすみません」


その声を聞いた瞬間、

涼平ははっとして、表情を緩めた。


「あ……いや。

 そうじゃなくて……」


そして、ふっと力を抜く。


「……そうか。

 柊、結婚したんだな」


柊は少し照れたように視線を逸らす。


「……ああ」


涼平は、心から安心したように笑った。


「よかったな。

 ほんとに」


「……え?」


環が小さく声を漏らす。


「だってさ」


涼平は、少し懐かしそうに柊を見る。


「おまえ、あの頃ずっと環さんのこと好きだっただろ。

 声もかけられないくせにさ」


「おい……」


「いや、事実だろ?」


凪がすかさず頷く。


「そうっすね。

 柊先輩、見た目に反して恋愛ポンコツでしたし」


「……凪」


涼平は笑いながら、環に向き直った。


「環さん。

 柊のこと、よろしくお願いします」


「柊、強そうに見えるけど、

 あいつ結構もろいんで。

 環さんが辞めた後、ほんとに大変だったんですよ」


「ちょっと……!」


環は、驚いたように目を瞬かせたあと、

ゆっくり微笑んだ。


「……そうだったんですね」


柊は顔を赤くして、

思わず両手で顔を覆う。 


「もう……やめろって……」


そんな3人を見ながら、

環は静かに思った。


(……柊、こんなふうに笑うんだ)


誰も知らない。

この再会が、

やがて試される信頼と、選び直す勇気へとつながっていくことを。


それでも今はただ、

久しぶりの笑い声が、

休日の空気に溶けていた。

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