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1.

溜まりに溜まった疲労感からか体が重い。

 夏風に揺れる風鈴は軟弱な俺を嘲るようにチリンと鳴る。


「お疲れですか?陽葉君」


 こちらも鈴を転がすような澄んだ声が俺を案じる。


 紅葉を散りばめた鮮やかな和服。琥珀色の瞳は彼女の慎ましさをそのままはめ込んだみたいに穏やかだ

 肩まで伸ばした亜麻色の髪は彼女の首を優しく撫でている。

 ちんまりとした幼女体系なのにおっとりとした雰囲気の彼女渡瀬(わたせ)紅葉(もみじ)は俺の婚約者だった。


「まあ流石に今日は忙しかったしな」


「そうですね。今日は両家の会談に始まって私たちのお披露目会まで、朝からスケジュールがいっぱいでしたから」


 控えめにはにかむ彼女の頭頂部には、まだ見慣れない二つの山が輪郭を歪ませている。

 真ん中でペタンと折りたたまれたそれは、狐の耳そのものだ。

 それは彼女が妖孤の血を引く証明だった。


「どうかしましたか?」


 俺の目線に気付いた紅葉は俺に並んで縁側に座る。優しい花のような香りがする。

 腕にふわっとした感触がしたのは紅葉の尻尾が巻きついてきたからだ。


「これほんとに現実かなって」


「まあ、今までの暮らしとは随分違いますもんね。ゆっくり慣れていけばいいですよ」


「……そうだよな。もうそれなりにこの生活を送ったはずなのに。一体いつになれば慣れることやら」


「あんまり心配しすぎないでくださいね。ほら、私もいますから。人生の先輩として、陽葉君のお嫁さんとして、しっかりサポートしますから」


 紅葉は誇らしげに自身の控えめな胸を張る。


「人生の先輩か……?」


「何を言うんですか!前も言いましたよね?妖孤は長命なので、この私でさえ百歳を超えてるんですよ」


「いや、そう見えないくらい幼いというか若いというか」


「ぐう。確かに私は家族の中で各段発育していない方ですけど」


 悲し気に肩を落とす紅葉に少し悪いことを言ってしまったと思う。


「とにかく頼りにしてるよ、先輩」


「……なんだか腑に落ちませんけど。まあ、私が年上としてしっかりリードしますから!」


 何とも頼もしい物言いだ。

 感心を浮かべながら、俺は目の前に広がる古来日本の芸術的な相貌の庭を眺める。

 それは教科書やテレビなんかでしか見ることのなかった遠い世界のものだとばかり思っていた。


 遡る事少し前、俺はこの生活と出会うきっかけとなった出来事を思い返す。


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