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皆、愛してる

作者: 夕朝烏兎

初めての小説投稿。誤字が多いと思いますので、コメントなどで指摘していただけたら幸いです。

誰かに、少しでも、私を好きになってほしかった。


              △▼△▼△▼△▼


「■■、起きて。」

柔らかくて、愛らしい声が、私の顔を愛でる。私は、絶対に目を開けずに、迷惑そうな顔をして、必死に夢の世界に戻ろうとする演技をして、少しでも長く、ここに留まろうとする。この声が、朝日よりもずっと、私を包み込んでくれるから。私に歩み寄ろうとするフリをする先生よりもずっと私を守ってくれるから。学校の皆よりもずっとずっと。私を、愛してくれるから。

「ねえ、起きてよ!!」

ほほに鋭い、痛みが走った。それに驚いて、私が目を開けると、目の前には、涙にぬれた二つの瞳。

ゆっくりと、私の視線は彼女の手に向けられた。彼女の真っ赤な手が、私に何が起こったのか教えてくれた。

「かあさ…」

ん、と言い切るよりも先に、彼女の手が私のほほを再び襲った。

「どうして、起きてくれなかったの?」

私は、痛みを少しでも抑えるために、手でほほをおさえながら、彼女の顔をゆっくりと見上げる。


              △▼△▼△▼△▼


誰かに、少しでも、私を好きになってほしかった。

もっと楽しく、笑顔で話したかった。


              △▼△▼△▼△▼


ピンポーン。

インターホンが鳴った。父と母は今、どこかに出かけて行った。

私が出るしかなかった。だから、仕方なかった。

私の汚くて、親とまるで似てないような顔を見せるのは、仕方なかった。

ゆっくりと、玄関のドアを横にスライドさせる。すると、

「■■!」

聞き覚えのある声がした。前方へ、視線を動かす。そこには。

「………良かった、元気そう、で…」

「〇〇………?」

突然の来訪者に。いや、突然の来訪者達に。

鍵のかかった格子状の塀の向こう側に、一年ぶりに見る顔がたくさんあった。

その中心として、私に言葉をかけたのは、幼馴染で、わたしがずっとずっとずぅーっと。唯一無二の親友だと思っていた、思い込んでいただけの〇〇だった。

すぐに向き直り、玄関のドアに向かう私の背中に、

「■■!!待って!!」

悲痛な、まるで私が悪いとでも言っているような声色で、私を呼び止める声が、私を何年もの間、騙し続けた………いや、違う。私のただのひとりよがりだったんだ。なんでもっと早く、気付けなかったのかな。

そんな人の、声を聞いていないかのように、私は、玄関の扉をゆっくりと動かした。


              △▼△▼△▼△▼


誰かに、少しでも、私を好きになってほしかった。

もっと楽しく、笑顔で話したかった。

ひとりよがりじゃないと、そう信じられる人に会えれば良かった。


              △▼△▼△▼△▼

「おはよう、■■」

階段をゆっくり降りていくと、そこには心の底から嬉しそうな笑顔をつくった母さんが立っていた。

私は、思わず目を逸らしてしまった。

「今日、お母さん■時に帰ってくるから。お昼は冷蔵庫に入れておいたから、レンジでじゅうぶん温めてから食べてね。あ、ゆっくり噛むのよ?。」

「………………………………………………………」

私からの言葉を望んだのか、しばらく私をじっと見つめる母に、私は、何も返せなかった。

…………………返す言葉がなかった。


              △▼△▼△▼△▼


誰かに、少しでも、私を好きになってほしかった。

もっと楽しく、笑顔で話したかった。

ひとりよがりじゃないと、そう信じられる人に会えれば良かった。

ちゃんと、気持ちを言葉で伝えるべきだった。


              △▼△▼△▼△▼


「お、起きたのか。」

うつろな視界のまま、私が飲み物を撮りに来た時、父さんは母さんと同じ笑顔を浮かべて、私に言った。

私はまるで聞こえてないみたいに、冷蔵庫を開けて、中にあったペットボトルを取り出して、自分の部屋へ持っていく。一言も、発さずに。一段、一段と上がっていく私の耳に、ドアが開く音が聞こえる。

弟が帰ってきたのだと、すぐに気づいた。

階段を完全に登りきるその直前、耳に確かに、

「…………どうして、あの子は」

父の、失望と怒りに満ちた声が聞こえた。


              △▼△▼△▼△▼


誰かに、少しでも、私を好きになってほしかった。

もっと楽しく、笑顔で話したかった。

ひとりよがりじゃないと、そう信じられる人に会えれば良かった。

ちゃんと、気持ちを言葉で伝えるべきだった。

二人にとって、理想の娘と息子でありたかった。


              △▼△▼△▼△▼


トイレに行くために、部屋のドアを開けて、ゆっくりと歩いていく。

その時、背後でドアの開く音がした。

「あ」

私はふと振り返った。

「………何。」

怒りと憎しみに満ちた声で、彼が言った。

私はその言葉に何も返さずに、トイレのドアへ……

「なんか言えよ!!」

少し悲痛な声色に感じたのは、きっと気のせいだ。気のせいということにして、私はトイレのドアを開ける。


              △▼△▼△▼△▼


誰かに、少しでも、私を好きになってほしかった。

もっと楽しく、笑顔で話したかった。

ひとりよがりじゃないと、そう信じられる人に会えれば良かった。

ちゃんと、気持ちを言葉で伝えるべきだった。

二人にとって、理想の娘と息子でありたかった。

いつでも頼れる、「さいきょーのねえちゃん」でいたかった。


              △▼△▼△▼△▼


──父へ、母へ、弟へ、○○へ、クラスの皆へ。

そこまで書いて、私は怖くなって、紙をくしゃくしゃにして捨てた。

一年前。もうどうしたらいいかわからなくて、私は死んで逃げることにした。

手首を挟みで切って、風呂場に頭を…………

あの時、意識が消えていく中で、私の中に残ったのは、ただ、一つ。

「いやだ、死にたくない」だけ。

死んで皆がどんな思いをするのか。皆にどれだけ迷惑をかけるのか。

そんなこと、一つも頭に浮かばなかった。だって、誰も私のことを……………

あれから、私はもっと逃げ続けた。皆と話すことから。自分を傷つける全ての物から。

いずれ来る、‶死“から。

何度も立ち向かおうとした。どれだけ傷ついても、どれだけ悲しんでも。

そして、失敗した。

誰か教えて。私は、死んだほうがいいのかな。それとも、死なない方がいいのかな?。そう思って、いいのかな。

そんな、私の質問に、答えを与えてくれたのが、彼だった。


              △▼△▼△▼△▼


「いい加減にしろよ!!」

私と、向かい合った彼が、私への怒りと憎しみを宿した瞳で、にらみつけてきた。

ずっと混乱していた私に、彼は言葉を続ける。

「○○も父さんも母さんも、お前のことずっと大事に思ってる!!俺だって思ってる!!ほんとはもうわかってんだろ!?皆お前のことが、好きで好きで大好きで、たまらなく好きなんだよ!!。そうじゃなきゃお前に話しかけたりなんてしない!!。ホントに、本当にだ。お前が俺たちを信じなくても、俺たちはお前を信じてる。だから、信じてくれよ。」

その言葉が、私の心にどれだけ刺さったのか、私は知らなかった。分からなかった。だから仕方ない。

「どうしてそう思うんだ!?○○があんなこと言ったからか?、父さんがまずい料理ばっか食わせてくるから?母さんがほっぺを何度も何度も叩いたから?それとも俺が……俺が何もしなかったからなの?」

気付くと、彼の二つの瞳からは、あふれるばかりの涙が流れていた。

「教えてよ……姉ちゃん。」

そして、言ってくれた。

「だれのことも……本当に信じられない、なら……」


「どうして……、つらくても生き続けるの?」


              △▼△▼△▼△▼


──父へ、母へ、弟へ、○○へ、クラスの皆へ。

私は、本当にどこまでもどこまでも、弱くて、脆くて、そして、卑怯でした。

本当は、ずっとみんなの本当の気持ちに、気付いていたというのに。

父さんが、自分の料理が家族の下にあわないと知っていたのに作り続けていたのは、昔みたいにみんなでまずいって、自分がどれだけ悪く言われてもいいから、笑いあえるようにするためだったんだよね。時間をたくさん、私の為に使ってくれてありがとう。そして、ごめんなさい。

母さんが、私が遅くまで寝てたらビンタするようになったのは、前みたいに私が本当の意味で眠っていないか、確認したかったからなんだよね。そのあとすぐにやめて、私の部屋に来るようになって、うざいって叫んじゃったの、本当にごめんなさい。

▲▲が、何もしてくれなかった、なんて言ってたけど、あんたはいつも、私のことを気遣ってくれてたから、私に関わらないようにしてくれたんだよね。あんたの言ったとおりだった。私はいっつも逃げてばっかり。家に友達呼びたかったよね。ごめんね。

○○。私はあなたを恨んだりしてない。あの時の言葉の意味、分かってるから。全部全部、分かってるから。ごめんね。私、結構真に受けちゃうから、冗談かどうかの区別も付けられないから。

だから、こんなになっちゃった。

クラスの皆は、一年間もずっと、貴重な時間を奪って、ほんとうにごめんなさい。

みんな、いい人だから。みんなに大事に思ってもらえてるって、知ってたのに。

ありがとう。さようなら。



やっと、覚悟が決まった。

やっと、分かった。でもごめんね。

みんなのこと分かってたのに、信じられない。

誰かに愛してもらえてるって、信じられないの。

だから、最後に。

この思いだけ、伝わりますように。


「皆、愛してる。」

目の前に迫ってくる硬いコンクリートに震えながら、どこにも届かない音が、口から、こぼれていた。

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