調律の真理
― 世界の奥底に隠された、歌と科学の記録 ―
【魔法とは何か】
この世界では、魔法とは“選ばれし者の歌声”によって発動する力だと信じられてきた。
しかし、その真実は大きく異なっていた。
魔法の正体は、太古に滅びた科学文明が遺した『ナノマシン』によって生じる現象である。これらのナノマシンは環境中や人間の体内に微細な粒子として存在し、特定の音波に共鳴して活性化するよう設計されていた。
人々が祈り、旋律を紡ぎ、女神に捧げていた“詠唱”は、実際にはこの共鳴現象を無意識に操作していたのである。
【女神アリアの真実】
女神アリアは“存在”ではなかった。
かつて世界を支えていた科学文明が築いた音響制御ネットワークの中枢――すなわちナノマシンを制御・調律する人工知能の名残である。
神殿と呼ばれていた施設は、女神アリアの中枢装置が保管された制御タワーであり、そこに集う信者たちは無意識のうちに維持・信仰の形で管理行動を繰り返していた。
【魔物とは何者か】
魔物とは、過剰なナノマシンを吸収した動物たちが暴走した存在である。
ナノマシンの蓄積が限界を超えたとき、彼らは強制的にそれを排出しようとし、その過程で放出される音波エネルギーが“魔法のような現象”を引き起こす。
また、魔物が歌詠士を優先的に狙う理由もここにある。歌詠士は共鳴性が高く、体内のナノマシン濃度も他より高いため、“共鳴の引き金”として本能的に察知されるのだ。
【調律詠者とは】
セリア・ライトフォードは、調律詠者と呼ばれる存在である。
その本質は、音波とナノマシンの共鳴構造を理解し、旋律そのものを“再定義”できる能力にあった。
彼女の歌はただの祈りではなく、構造そのものを書き換える“再構築命令”だった。
それにより、禁忌とされた“攻撃魔法”や“空間干渉”までも可能となった。
【なぜ“歌”だったのか】
古代文明はなぜ、音や旋律をナノマシン制御の手段としたのか?
その答えは、音楽が“最も原始的で、最も普遍的な伝達手段”だったからである。
言語は時代と共に変わるが、音の高さ・強さ・振動は種族や文化を越えて共鳴する。そしてその響きは、命そのものと深く結びついている。
彼らは人類がどれほど退化しようと、“歌”という形で未来に力を託した。
【歌が裁く、という意味】
“歌が裁く”とは、暴力による審判ではない。
それは、誰かの心に触れ、響きを正す力。
セリアの放った旋律は、ただ敵を倒すのではなく、矛盾した構造そのものを“調律”するものだった。
ゆえに、彼女の歌は世界を救い、そして再び、世界に問いかける響きとなった。




