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7. 歌が裁く揺らぎの心

朝日が差し込む窓辺で、セリアは鏡の前に立っていた。

制服の襟を整えながら、昨夜レオン副団長が言ってくれた言葉を反芻する。

「歌を恐れる必要はない。信じて歌い続ければ、必ず答えは見つかるはずだ」

その言葉が心を軽くし、少しだけ前向きな気持ちを取り戻していた。


「よし……今日も頑張ろう」

気合を入れて部屋を出ると、廊下でリクと鉢合わせた。

「おはよう、セリア! 元気そうで安心したよ」

「おはよう、リク。心配かけてごめんね」

「気にすんなって。今日の訓練、頑張ろうぜ!」

リクの明るさに支えられ、セリアも笑顔を返した。



訓練場では、アイリス隊長がすでに待機していた。

「今日は、守護の歌をさらに強化する訓練を行う。昨日の実戦でわかったように、後方支援の歌詠士が狙われる場面が多かった。歌唱の精度を高め、魔物の突進にも耐えられる守護力を身につけることが目標だ」

新人たちは緊張した面持ちで頷く。


「まず、基本的な守護の歌を発動し、その後で強化歌に移行する。個別に指導するから、一人ずつ順番にやってみろ」

アイリスの指示で、訓練生たちが順番に歌を披露し始めた。



リクの番が来ると、彼は自信を持って前に出た。

「――光の盾よ、力を集め、仲間を護れ!」

声量豊かな歌が響き、薄い光の壁が前方に広がる。

アイリスは少し微笑みながら頷いた。

「安定している。もう少し声に芯を持たせるといい」

「はい!」


次はセリアの番だ。

彼女は少し緊張しながらも、歌唱杖を握りしめ、ゆっくりと息を整えた。

「――守護の風よ、優しく包み、仲間を護れ……」

透き通った声が響き、柔らかい光が広がる。

だが、その瞬間、光が急に強まり、眩しい閃光が辺りを包んだ。


「うわっ!」

アイリスが思わず目を覆い、周囲の訓練生たちもざわめく。

「セリア、その力は……?」

光が収まった後、アイリスは訝しげにセリアを見た。

「す、すみません……」

「どうしてそんなに力が強くなるのだ? 加護の歌でも同じだったが、制御が甘いのか?」

セリアはうつむき、言葉を詰まらせた。


「アイリス隊長、セリアは悪気があるわけじゃないんです!」

リクが必死に弁護するが、アイリスは首を振った。

「悪気があろうとなかろうと、制御できない力は危険だ。訓練中に暴走すれば、仲間を傷つけかねない」

その厳しい言葉に、セリアの心が痛む。


「私……どうしてこんな風になってしまうんだろう……」

アイリスの視線に耐えきれず、セリアはその場から逃げ出した。

「セリア!」

リクが呼び止めるが、彼女は振り返らずに駆け出してしまった。



人気のない庭園にたどり着き、セリアは膝をついて呼吸を整えた。

溢れる涙が止まらず、必死に手で拭ったが、次々に零れ落ちる。

「私の力が……みんなを困らせてる……」

歌を信じて戦おうと決めたはずなのに、自分自身が怖くなっている。

(どうして……私だけが異常なの?)


すると、ふと足音が聞こえた。

「ここにいたか」

振り向くと、レオンがゆっくりと近づいてきた。

「副団長……」

「大丈夫か? アイリスが心配していた」

「……すみません、私……」

レオンはセリアの肩にそっと手を置き、優しく語りかけた。


「自分の力を怖がるな。昨日も言ったが、力そのものが悪いわけではない」

「でも、私の力がみんなに迷惑をかけているんです……」

「迷惑をかけたからといって、力を封じるのか? 君の歌には、確かに他とは異なる力がある。だが、それをどう使うかは君自身が決めることだ」

セリアは涙を拭い、レオンを見上げた。


「私は……守りたいんです。誰かを傷つける力じゃなくて、助ける力にしたい。でも、どうしてもうまく制御できなくて……」

「ならば、その道を探し続ければいい。何度も試し、失敗しても、諦めるな」

その言葉に、セリアの中で少しずつ希望が灯る。


「私……やってみます。力を制御して、みんなを守れる歌を歌いたい」

「その気持ちを忘れるな。それこそが、君が持つ“歌”の強さだ」

レオンが静かに微笑むと、セリアは心の奥に小さな勇気が生まれるのを感じた。

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