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72.歌が裁く裏の契約

セリアに対する拘束命令は、一時的に保留された。

だが、それはあくまで“見せかけの猶予”だった。


神詠騎士団本部の裏手にある閉鎖された議事室――

その場所で、神殿上層部の数名と評議会代表が再び顔を合わせていた。


「監視という名目で、彼女の行動と歌唱データを記録している。

同時に、共鳴検知装置の小型版を近接圏に常設させた。

次に“逸脱”が確認された場合、即時封印の段階へ移行する」


低く発せられたその声に、数名がうなずいた。


「……やはり、制御は不可能だとお考えですか?」


「“制御不能”とは言っていない。

だが、“あの力の根幹”が我々の信仰と技術体系に収まるとは思えん。

今のまま彼女を野放しにすれば、神の座の意義そのものが問われることになる」


「それでは――“計画通り”に?」


一人が、机の上に置かれた封筒をそっと押し出す。

そこに刻まれていた印章は、神殿と王都評議会が極秘に共有する“裏の契約書類”。


内容はただ一つ。

「調律詠者を対象とした制御干渉実験計画・コード名《アリアⅡ》」




一方その頃、セリアは王都郊外の研究塔にいた。

ジェイドの誘いで訪れたこの場所は、古代技術の研究と検証を行うために建てられた旧塔の一つだった。


「少しでも……君の力の仕組みを、科学的に理解しておきたくてね」


ジェイドは端末の前に立ち、先日の砦での戦闘記録を呼び出した。


「これが、君が破調の旋律を歌った直後のナノ粒子反応ログ。

明らかに“構造振動”そのものが瞬間的に反転してる。

これは従来の魔法理論では説明できない」


「でも……私には、ただ歌っただけの感覚だったよ」

セリアは正直にそう答えた。


「もちろん、意識して共鳴や逆相を作り出してたわけじゃない。

でもそれこそが“自然に制御できている証拠”なんだ。

君は、前世の知識と今の信仰の歌唱技術を――無意識に“再構成”して使ってる」


「再構成……?」


ジェイドは頷いた。


「音羽静という研究者が生涯をかけて追い続けていた“音波による制御干渉技術”。

君は、それを“祈りの旋律”として体に染み込ませ、

この世界の“音に反応する粒子”――つまりナノマシンと交信してる」


セリアは言葉を失っていた。


(私は、前世の知識をただ“思い出した”わけじゃない。

この世界で生まれた“歌”と重ねて……自分の力として“作り直していた”)


「つまり君は、“この世界の歌”を通して前世の技術を解釈し直してる。

だからこそ、君の歌は誰にも真似できない。

調律詠者とは、**“過去と今をつなぐ者”**なんだよ」




塔の外に出ると、空はすでに夕焼けに染まり始めていた。


レオンが待っていた。


「何かわかったのか?」


「うん。……ようやく、自分が何者なのか、少しだけ掴めた気がする」

セリアは笑みを浮かべる。だがその瞳は、どこか切なげだった。


(この力は、偶然なんかじゃない。

前世の知識と、今の私の想い――全部重なって、この歌が生まれた)


「でもね、レオン。

きっともうすぐ、私の力は“試される”時が来ると思う」


「……誰に?」


「ううん。世界に、だよ」




その夜、神殿の高層窓から街を見下ろす男の影があった。


グラン・エスパーダは、ゆっくりと手にした書簡を閉じる。

それは、セリアの歌唱行動に関する“機密観測レポート”。

そこにはこう記されていた。


「セリア・ライトフォードの歌は、アリア神歌とは別種の共鳴を示す。

現在、制御不可能。

ただし――“共鳴周波数の類似性”により、旧文明制御機構への干渉可能性あり」


(やはり……鍵は“調律詠者”だったか)


彼の背後には、もう一枚の書簡が置かれていた。

それは“封印に代わる処置”――制御同化計画案《調律融合素体》。


(君は……歌で世界を救うのか、それとも崩すのか)


その言葉は、風に溶けて消えていった。

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