表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歌が裁くこの世界で  作者: みずきち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/97

70.歌が裁く再誕の響き

夜が明け、砦の周囲には昨夜の戦闘の痕跡が静かに残っていた。

歌わずに襲いかかってきた魔物――あの異常な個体の沈黙が、逆に多くを物語っていた。


セリアは砦の一角で朝の風を浴びながら、手の中にある“破調の旋律”の記録装置を見つめていた。

その内部には、まだ完全には理解しきれない波形が眠っている。

けれど、昨夜の戦いで確かに感じた――これはただの攻撃ではない。響きを断ち、暴走を鎮める力。


(私は、あの魔物の中にある“何か”に触れた。

それがナノマシンなら……私の声は、間違いなくそれに届いた)


その思考の奥に、再び浮かんでくる前世の記憶――


研究室の無機質な光。

試験体に音波を照射する実験。

制御波形の微調整に使った“逆相パターン”。


「共鳴を崩すには、“対象の振動源”を特定し、そこへ逆の波を正確に重ねること。

だがその精度がほんの少しでもズレれば、対象ごと破壊する」


かつての音羽 静としての自分が、機械的に語ったその言葉が、

今では命を救うための“歌”に変わっていた。


(同じことをしているのに、私の心は……今の方がずっと熱を持ってる)




砦の広間では、ジェイドが昨夜のデータをまとめていた。


「反応のピークは、セリアの歌が干渉を起こした直後。

体内のナノ粒子の“振動周波”が急激に減衰してる。

つまり、あの魔物は“共鳴の過剰”によって暴走してたってことだ」


「……やっぱり、ナノマシンの影響なんですね」

アイリスが低くつぶやく。


「そうだと思う。しかも、対象は“歌詠士”の歌に強く反応する。

つまりナノマシンの残留や活性化に関して、

この世界で唯一“意図的にそれを操作できる存在”が……歌詠士ってことになる」


リクが驚いたように問い返す。


「それって……歌うこと自体が、ナノマシンに命令してるってこと?」


「正確には、命令というより共鳴と誘導。

特定の旋律や歌詞がナノ構造に干渉してる。

セリアの歌がそれを“安定化”させる一方、

逆に魔物のような存在には暴走排出行動を引き起こす」


セリアは、その言葉を静かに受け止めた。


「それなら、私の歌が……“暴走を止める鍵”になるってことよね」


「ただし、それは“制御できるなら”の話だ」

ジェイドが重く続ける。


「力を持つ者がすべてを救えるわけじゃない。

制御を誤れば、力そのものが世界を崩す」


その言葉に、アイリスが静かに頷いた。


「だからこそ、あなたは“調律詠者”なのよ。

すべてを歌で支配するんじゃない。

“響きを整える者”として……その在り方を選ぶ人」


セリアは、その言葉を胸に刻んだ。




だがその頃――


王都ヴェルナスの評議会では、神殿高官と数名の上級議員たちが密かに集まっていた。


長机の上に置かれたのは、「調律詠者セリア・ライトフォードの拘束提案書」。


「魔物との交戦報告にて、彼女が従来の歌とは異なる形式を用い、

未知の反応を引き起こした記録が複数確認されている。

これは“力の逸脱”であり、制御されないならば脅威だ」


「神の名を借りた秩序を保つ以上、

個人の意思でその力を扱わせることはできない。

“調律詠者”の称号は、あくまで制限の枠内にあるべきだ」


「彼女が“神の歌”以外の旋律を継承したとすれば……

それは“信仰の外”から来た異物。

――封印措置が妥当だろう」


決議は進む。

だがその裏で、グラン・エスパーダはただ黙ってその流れを見つめていた。


(我々は、見誤ったのかもしれぬな……

“調律詠者”とは、ただの称号などではなかった)


だがそれでも彼は、ゆっくりと手元の印章を握りしめた。


(ならばなおのこと、“その力”を野放しにはできん)




夕暮れの空、セリアたちは砦を後にした。

王都へ戻る道は、以前よりも険しく、そして暗雲が立ち込めている。


だがセリアの中には、確かな響きがあった。


(私はこの歌で、“何を守るか”を選ぶ。

たとえ、神殿に背を向けることになっても。

私は私の声で、世界を調律していく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ