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5. 歌が裁く初陣の光

夜が更け、神詠騎士団の寮には静寂が訪れていた。

セリアはベッドの上で横になりながら、今日の訓練を思い返していた。

支援魔法と回復魔法を同時に使う連携訓練――最初は不安だったが、リクの支えもあってうまくやり遂げられた。

(少しずつだけど、できるようになってきているのかな……)

そんな小さな自信が芽生えた矢先、不意に窓の外から騒がしい声が聞こえた。


「魔物が出たぞ! 王都の外れだ!」

その声に反応して、寮内がざわめき始める。

「何があったの?」

リクが慌てて部屋を飛び出してきた。

「魔物が襲撃しているらしい。緊急召集がかかったぞ」

「そんな……まだ訓練生なのに……」

不安がこみ上げるが、セリアは歌詠士としての使命を思い出し、気持ちを引き締めた。



神詠騎士団の広場には、すでに多くの騎士や歌詠士が集まっていた。

グラン団長が高台に立ち、一同を見渡している。

「魔物が王都近郊に現れた。被害が拡大する前に殲滅せよ!」

力強い声が響き渡り、団員たちは一斉に準備を始めた。


「訓練生は後方支援だ。怪我人が出た際にはすぐに回復を施せ」

副団長のレオンが冷静に指示を出す。

セリアもリクと共に、支援部隊として配置に加わった。

「落ち着いて、いつもの訓練通りにやれば大丈夫だ」

リクが励ますが、セリアの心は不安でいっぱいだった。



夜闇の中、遠くで何かが吠える声が聞こえた。

重たい足音が地面を揺らし、次第にその姿が見えてくる。

「グロウルウルフ……! あんなに大きいのが群れで……」

灰色の毛並みが月光に反射し、血走った目が光る。

普通の狼よりも一回り大きく、牙が異常に発達している。


「魔物がどうしてこんなに集まっているの?」

セリアはかつて村で見た魔物の姿を思い出し、手が震えた。

「大丈夫だ、セリア。俺たちは後方支援だ。剣士たちが前線で戦ってくれる」

リクがそっと肩に手を置き、安心させようとする。



前線では、レオン率いる剣士部隊が魔物に立ち向かっていた。

「行くぞ、クラウディア!」

レオンが聖剣を振り下ろすと、光の刃が魔物を一閃し、灰となって消えた。

だが、数が多すぎる。倒しても倒しても次々と現れる。


「後方支援、回復を急げ!」

アイリスが声を上げ、歌詠士たちが回復の歌を奏で始めた。

セリアも遅れを取るまいと、歌唱杖を掲げて歌い出す。

「――癒しの光よ、傷を包み、命を繋げ……」

澄んだ歌声が響き、前線の騎士たちの傷が癒えていく。

「ありがとう、助かる!」

前衛の剣士が振り返り、笑顔を見せた。


しかし、その時――。

「魔物が後方に回り込んできたぞ!」

一体のグロウルウルフが側面から突進してきた。

リクがとっさに剣を抜き、立ち向かうが、衝撃で吹き飛ばされた。

「リク!」

セリアが叫び、急いで駆け寄る。


「くそ……なんだ、この力……」

リクは倒れたまま、必死に体を起こそうとしている。

魔物はそのままセリアに向かって突進してきた。

「来ないで!」

恐怖で声が震え、逃げることもできない。


だが、突如として光が走った。

「レオン副団長……!」

レオンが間一髪で割り込み、剣を構えて魔物を斬り伏せた。

「歌詠士を狙うのは魔物の常套手段だ。連携が甘いと、こうして突破される」

レオンの冷静な指摘に、セリアはうなだれた。

(私がもっとしっかりしていれば……)

その悔しさが胸に染み入る。



戦闘が続く中、魔物たちは依然として歌詠士を優先的に狙ってきた。

「魔物は知能が高い。戦線を崩すために、支援役を狙うのが常だ」

アイリスが歌いながら解説する。

「私たち歌詠士がまとまっていると、余計に狙われやすいのね……」

セリアは必死に回復を続けながら、戦況を見つめていた。


レオンが戦いの合間に叫んだ。

「歌詠士たちは間隔を開けて散開しろ! 一箇所に固まると狙われるぞ!」

その指示を受けて、歌詠士たちは各自分散して配置を変えた。

すると、魔物たちは狙いを定めきれず、次第に混乱し始めた。


「これで押し返せる……!」

レオンが光の剣を振りかざし、前衛を強化する。

戦闘が徐々に収束し、残った魔物たちも次々と討たれていく。



戦いが終わり、戦場には静寂が訪れた。

レオンが剣を収め、深く息をつく。

「よくやった、全員無事か?」

仲間たちが互いに無事を確認し合う中、セリアもようやく力が抜けた。


リクが笑顔で近づいてきた。

「セリア、よく頑張ったな。支援がなければ、俺もやられてたかも」

「ううん、私……まだまだだよ。でも、少しだけ自信がついたかも」

その言葉にリクも笑い、二人は肩を並べて帰路についた。

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