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65. 歌が裁く意思の継承

神殿地下の遺構を後にしたセリアたちは、誰にも知られぬように静かに施設から離れた。

夜が更け、王都は沈黙の中にあったが、彼らの胸の内には多くの言葉にならない想いが渦巻いていた。


神と呼ばれた“アリア”が、かつて存在した共鳴制御システムの中枢であり、

その歌が本来は“誰かの手で作られた技術”であったという事実。


その現実に、信仰を重んじてきた仲間たち――特にアイリスとレオンは、動揺を隠せずにいた。




翌朝、騎士団の一室にて。

セリアはレオン、アイリス、リク、ジェイドの四人と向き合っていた。


沈黙が少しの間流れた後、セリアが口を開く。


「私、今まで……“歌詠士”として力を使ってきたけど、

たぶん私はもう、その枠の中にはいないと思う。

この歌の力が、どうやって生まれ、何を伝えてきたのかを知って……私は、それを“使い方”で決めたい」


アイリスが、少し厳しい視線を向ける。


「あなたは、あの装置に反応した。それは確かに“選ばれた”者かもしれない。

でも、だからといってあなた一人が全てを決めるの?」


セリアは首を振った。


「決めるんじゃない。

“伝える”の。

本来のこの力は、誰かを崇めるためのものじゃなくて、

誰かを支えたり、守ったり、繋いだりするためにあったって――」


「じゃあ……あんたはこれからどうするつもりなんだ?」

リクがまっすぐな声で尋ねる。


「私は“調律詠者”として、この力を正しく伝え直す。

今まで“神の声”とされていた響きを、

もう一度、“人の歌”として受け止めていく。

……この力を誰かの支配に使わせたくないから」


ジェイドが頷いた。


「それは、同意だ。

歌の構造は本来、どこにでも存在し得る。

ただ、それを“信仰”の名のもとに独占し、

異端として否定する体制は、そろそろ見直されるべきだと思う」


レオンは、しばらく黙ったままセリアを見ていた。

その瞳には葛藤が宿っていた。

信じてきたものが音を立てて崩れ始めている。

それでも、彼は自分の剣を握りしめた。


「……俺は、まだ迷っている。

だけど、セリア。

お前が“守りたいもの”のために歌ってるなら――

俺はその背中を守る。

それが、今の俺にできることだと思うから」


その言葉に、セリアは目を伏せて小さく笑った。


「ありがとう、レオン。……それだけで、十分」




だが、その日の夕方。

神詠騎士団本部に、一本の命令が通達された。


王都中央評議会、およびアリア神殿上層部よりの通知――


「歌詠士セリア・ライトフォードを一時拘束。

異端思想の可能性あり。

信仰の根幹を揺るがす危険性が確認されたため、

歌唱使用を制限し、調査対象とする」


「……やっぱり来たか」

ジェイドが紙を見て呟いた。


「でも、まだ“強制拘束”じゃない」

リクがすぐさま声を上げる。

「なら、動けるうちにやれることがあるだろ!」


セリアはその場に立ち、静かに息を吸った。


「私は逃げない。けど、従うつもりもない。

もし本当に、この世界を変えたいなら――

ここで止まるわけにはいかない」


その瞬間、扉がノックされ、神殿からの使者が現れた。


「セリア・ライトフォード殿。

神殿上層部への出頭を命じられました。

同行願います」


使者の声は丁寧だったが、背後の数名の騎士が武装しているあたり、

それが“ただの呼び出し”ではないことは明白だった。


セリアは静かに、皆に向けて頷いた。


「……行ってくる。

でも、私はもう“独りじゃない”から――大丈夫」

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