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62. 歌が裁く眠れる遺構

王都ヴェルナスの空気は、ラグラン森林とは違う重たさを持っていた。


魔物の群れが近郊の集落を襲ったという報が入ってから、城下町では不安の声が飛び交い、

神詠騎士団の本部も慌ただしさを増していた。


だがその中で、セリアたちは静かに、そして確かな一歩を踏み出そうとしていた。




神詠騎士団研究区画――

表向きは“古文書の保管庫”という扱いだが、実際は過去の歌魔法に関する記録や、

禁止された文献を保管している機密区画でもある。


「この文書……やっぱり記されてる」

ジェイドが古びた羊皮紙を広げながら言った。


そこに描かれていたのは、王都地下に広がる巨大な構造体の見取り図。

明らかに“神殿”とは別系統の、技術的な建造物の痕跡だった。


「こっちがラグラン森林で見つけた遺構。

そして、この記録によると、地下に存在する“中枢塔”は……明らかに同じ設計思想だ」


セリアが指を添え、図面に視線を落とす。


「神殿の真下……祈りの中心とされた場所に、それがあるなんて」


「おそらく、最初に作られた“調律システム”は、この王都に集中していたんだ。

“神”とされた存在は、この中枢装置を通じて、歌を解析し、信号を全土に送っていた――」


「……まるで、信仰そのものが“制御”されていたみたいね」

アイリスの言葉は、どこか呆れにも似た静けさを帯びていた。



その夜、セリアは一人で神殿前の広場に立っていた。

空には星が浮かび、風が歌うように木々を揺らしていた。


「ここが……最初の“舞台”だったのかもしれない」


歌が信仰となり、信仰が力となった場所。

その裏で、何が隠されていたのか。

そして、自分の“歌”がなぜここで反応するのか。


セリアはその理由を、知るべきだと思っていた。


(この世界は……誰かが作った“劇場”なのかもしれない。

でも私は、観客じゃない。演者でもない。

“脚本を書き直す者”でありたい)


彼女の手が、歌唱杖を自然と握っていた。




翌日、王都中央区。

セリアたちは“神殿下層の施設”へ潜入する計画を練っていた。


「この中枢施設は、通常の出入り口からは行けない構造になっている」

ジェイドが地図を示しながら言う。

「唯一の接続路は、“光の祭壇”の裏。封印されていて、現在は誰も近づけないようになってる」


「つまり……信仰の中心をくぐり抜けなきゃたどり着けないってことね」

アイリスの言葉に、セリアはうなずいた。


「それでも、行く価値はある。

このまま“何も知らないふり”で進んだら、また誰かが傷つく。

誰かが、私の歌を使って――何かを始めようとしてる」


「そうだな。誰かが、お前の力を狙ってるなら……

俺たちが先に、それを掴みに行くべきだ」

レオンは迷いのない目でそう言った。


リクもまた、拳を握りしめた。


「だったら、今度こそ全部見てやるよ。神さまの秘密も、歌の正体も、ぜんぶな!」


一同はうなずき合い、計画を整える。



夜――

セリアは小さく歌を口ずさみながら、神殿の大広間に立っていた。


人々が祈りを捧げるこの空間が、

ほんの少し前まで、自分にとって“立ち入れない異端の場”だったことを思い出す。


今は違う。

自分の歌は、誰かに許されたわけじゃない。

自分で選び、ここに立った。


(だから私は、聞き届ける。

この場所に残されたすべての“歌”と“記録”を)

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