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4. 歌が裁く試練の歌

朝日が差し込む窓から、セリアはぼんやりと外を眺めていた。

昨夜もほとんど眠れなかった。

訓練中に発動してしまった異常な光――そのことが頭から離れない。

(どうして私の歌だけ、こんなに強くなってしまうんだろう……)

胸の奥に広がる不安を抑えきれず、思わずため息が漏れた。


ノックの音がして、扉が開く。

「セリア、おはよう!」

リクが元気よく入ってきた。

「昨日、大丈夫だったか? 控室に呼ばれたって聞いて……」

「うん、大丈夫。副団長が話を聞いてくれたの」

「そっか。それならよかった!」

リクの笑顔に、セリアは少しだけ気持ちが軽くなった。



訓練場に向かうと、すでに他の新人たちが集まっていた。

しかし、セリアが姿を現すと、何人かがひそひそと囁くのが聞こえた。


「またあの子だ……」

「昨日の加護の光、普通じゃなかったよな」

「やっぱり異端なんじゃないか?」


セリアはその声を耳にしないように努めたが、背中が重くなる。

リクが「気にするな」と言ってくれるが、心は晴れない。


訓練士が前に出てきて、今日の訓練内容を説明し始めた。

「本日の課題は、支援魔法の応用だ。仲間を守るための強化歌を中心に練習する」

訓練士の言葉に、新人たちは真剣な表情で耳を傾ける。


「まずは『守護の歌』の実践からだ。これは、防御力を高める効果があり、魔法攻撃から仲間を守る要となる」

実際に訓練士が歌い始めると、青白い光が円を描き、保護膜が形成された。

「この膜が敵の魔法を弾く役割を持つ。順番に試してみろ」



一人ずつ前に出て、支援歌を披露する。

リクの番になると、彼はやや緊張しながらも声を張り上げた。

「――守りの光よ、盾となりて、仲間を護れ……」

透明感のある光が広がり、薄いバリアが形成される。

「いい感じだ。もう少し声を安定させろ」

訓練士の指導に、リクは嬉しそうに頷いた。


次に呼ばれたのはセリアだった。

「セリア・ライトフォード、前へ」

胸が高鳴り、不安で指先が震える。

(また、変なことになったらどうしよう……)

けれど、逃げ出すわけにはいかない。

セリアは歌唱杖を握りしめ、ゆっくりと呼吸を整えた。


「――守護の風よ、静かに包み、仲間を護れ……」

柔らかな旋律が訓練場に響き渡る。

淡い青い光が周囲を包み、透き通った防護壁ができた。

その穏やかさに、訓練士も驚いたように頷いた。

「問題ない。むしろ、先日の加護の光より安定している」


安心感が胸を満たし、セリアはほっと息をついた。

(よかった……今日は大丈夫みたい)



訓練が進む中、セリアは少しずつ自信を取り戻し始めた。

他の訓練生たちも、今日はあまり避ける素振りを見せない。

だが、その安堵も束の間だった。


「次は応用だ。守護の歌を使いながら、仲間を回復させる連携を学ぶ」

訓練士が説明すると、新人たちは顔を見合わせた。

支援歌と回復歌を同時に発動させることは難易度が高い。

セリアも緊張感が走ったが、リクが「一緒にやろう」と声をかけてくれた。


リクが守護の歌を、セリアが回復の歌を同時に歌う。

「――癒しの光よ、安寧を与え、痛みを包め……」

光が優しく広がり、リクの守護膜と共鳴して強化された。

「おお、うまく連携しているな」

訓練士が感心したように頷き、他の訓練生たちも拍手を送る。


「すごい、セリア!」

リクが笑顔で声をかけ、セリアも少しだけ照れながら微笑んだ。

(少しずつでも、認めてもらえているのかな……)



その日の訓練を終え、夕方の食堂でリクと食事をしていると、訓練士が近づいてきた。

「セリア、今日はよくやったな。力の制御もかなり安定してきた」

「ありがとうございます……」

「ただ、まだ力が強すぎる場面がある。支援魔法として、もっと安定させる工夫が必要だ」

セリアは真剣に頷き、改善の糸口を考え始めた。


食堂を出た後、リクがふと思い出したように言った。

「セリア、やっぱり力が強いんだな。でも、今日はすごく安定してたから、大丈夫だって」

「ありがとう、リク。でも、どうして私だけこうなるのかな……」

「きっと、セリアが特別なんだよ」

その言葉に、セリアは少しだけ心が救われた気がした。

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