37.歌が裁く信頼の試練
謹慎処分となったセリアは、自室に閉じこもっていた。
窓から差し込む朝の光さえ、どこか重く感じる。
(私の力が異端なら、私はここにいる資格がない……)
ベッドの上で膝を抱え、頭を抱えたまま思考が堂々巡りする。
扉をノックする音がして、リクが顔を覗かせた。
「おい、セリア、大丈夫か?」
「……うん、なんとかね」
リクは部屋に入ってきて、ベッドの横に腰を下ろした。
「お前が謹慎になってから、団内の空気が悪くなってるよ。特に信仰心が強い連中は『解放者を放置すべきじゃない』って騒いでる」
「そうだよね……私があんな力を使ったから」
「でもよ、俺たち同期の連中はお前を信じてる。あの時のことを見てたし、お前が異端者なんかじゃないって分かってるから」
「ありがとう、リク……でも、どうしてもみんなを不安にさせちゃう」
「気にすんなって。俺がちゃんとフォローするからさ」
リクが笑ってくれたことに、少しだけ救われた気がした。
夜になり、外が静まり返ったころ、セリアは歌唱杖を握りしめていた。
(私は、歌を使う資格があるのかな……)
「――風よ、優しく響け、力を包み、調和を生め……」
歌声は震えていて、まるで自分自身が拒絶しているようだった。
その時、窓の外から不意に声がした。
「歌をやめるつもりか?」
驚いて振り返ると、窓の外にはカイルが立っていた。
「カイル……? どうしてここに……」
「ふっ、監視をかいくぐるくらい朝飯前さ。お前に話があってな」
カイルが窓枠に腰掛け、穏やかな表情で続ける。
「お前、異端者として追放されるかもしれないんだろ?」
セリアはうつむき、力なく答えた。
「うん……攻撃の歌を使ったから、みんなが怖がってる」
「それが当然だ。攻撃魔法は禁忌。信仰を壊す力だからな」
「私だって、あんな力を使いたくなかった……でも、あの時は守りたくて……」
カイルは少し考えるように目を細めた。
「その力をもっと知りたくないか?」
「知りたい……でも、怖いんだ。もし本当に異端だったら、私はどうすればいいの……?」
カイルは歌唱槍を軽く振りながら、冷静に言った。
「お前の力が異端かどうかなんて、奴らが決めることじゃない。真実はお前自身が見つけるべきだ」
「真実……」
「俺たちはずっと歌の真実を探している。攻撃の歌は、ただの破壊の力じゃない。古代の力――つまり科学が隠されているかもしれないんだ」
セリアは戸惑いながらも、カイルの言葉に惹かれていた。
「科学……?」
「信仰が否定してきた力を解き明かす。それが、俺たち異端者の目的だ」
「でも、そんなことをしたら……騎士団を裏切ることになる……」
カイルは静かに言った。
「裏切るかどうかはお前次第だ。ただ、お前の歌が本当に異端かどうか、知りたくないか?」
セリアは歌唱杖を握りしめた。
(自分の歌が異端なのか、それとも……)
「カイル……もし私がそっちに行ったら、私の歌を解明できる?」
「もちろんだ。力の正体を暴けば、お前は異端者じゃなくなるかもしれない」
「でも……私は仲間を裏切りたくない」
カイルは少し笑って言った。
「信じてる仲間がいるなら、その信じる理由を見つけてやればいい。何もせずに異端と決めつけられるのは、俺だってごめんだ」
セリアの胸がざわついた。
(カイルの言うことが正しいかは分からない。でも、私は自分の力を知りたい)
「少しだけ……考えさせて」
「構わないさ。ただ、あまり悠長にしてると、お前が消されるかもしれない。それだけは覚えておけ」
カイルはそう言い残し、闇夜に消えていった。
翌朝、リクがセリアの部屋にやってきた。
「おはよう、セリア。昨日、寝れたか?」
「うん、少しだけ……」
「なんかあったか? 元気なさそうだけど」
「リク、もし私が異端者だと決まったら……どうする?」
リクは一瞬驚いたが、すぐに笑って答えた。
「それでも、お前はお前だろ? 異端とかどうとか、そんなこと関係ねえよ」
「ありがとう……」
リクの言葉に救われつつも、カイルの提案が頭から離れない。
(自分の歌が異端なのかどうか、確かめるには……)




