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36.歌が裁く疑念の嵐

轟撃獣を討伐してから数日が経ったが、神詠騎士団本部の雰囲気は重苦しかった。

セリアが「攻撃の歌」を使ったという噂が急速に広まり、団内には不安と疑念が渦巻いている。


廊下を歩くセリアは、隊員たちの視線が自分に集中しているのを感じ取っていた。

「あれが、異端の力……」

「解放者なんじゃないかって噂だぞ……」

「攻撃の歌を使ったって本当なのか……?」


リクが隣で、苛立ちを隠さずに声を荒げた。

「おい! セリアのことを勝手に悪く言うなよ! あんたたち、あの時セリアがいなきゃ全滅してたんだぞ!」

隊員たちは一瞬たじろいだが、それでも不安げな表情を浮かべている。

「でも……攻撃の歌って、禁忌の力だろ? あれが解放者の力だとしたら……」

「俺たち、異端者と一緒に戦ってたのか?」

リクがさらに怒鳴りかけたが、セリアが手を挙げて止めた。

「もういいよ、リク。私が攻撃の歌を使ったのは事実だから……」

「だけどさ! お前はみんなを守ろうとして……」

「それでも、みんなが不安に思うのは仕方ないことだよ……」

セリアの声は震えていたが、無理に微笑もうとしていた。


リクは拳を握りしめ、悔しそうに俯いた。

「くそっ……なんで、セリアがこんな目に遭わなきゃならないんだ……」


その時、レオンとアイリスが廊下を歩いてきた。

レオンはセリアを見ると、少し厳しい表情を浮かべた。

「セリア、団長が呼んでいる。来てくれ」

「はい……」

アイリスも心配そうに声をかけた。

「大丈夫? 無理はしないで」

セリアは小さく頷いたが、その足取りは重く、顔色も冴えなかった。



団長室に入ると、グラン・エスパーダ団長が厳しい表情で待っていた。

「セリア、攻撃の歌を使った件について報告を受けている」

「はい……申し訳ありません」

団長は深くため息をつき、腕を組んだ。

「攻撃の歌は解放の力として禁忌とされている。その歌が実際に発動した以上、君の力を異端と見なす意見が多く出ている」

セリアはうつむき、涙をこらえながら声を振り絞った。

「私は……守りたいだけでした。でも、その気持ちが強すぎて、あの歌が……」


レオンが一歩前に出た。

「団長、私はセリアが異端であるとは思いません。確かに攻撃の歌を使ったことは事実ですが、あの場では命を守るための行動でした」

アイリスも続けて言った。

「私も同意です。セリアの力が危険である可能性は否定できませんが、異端と断定するには早すぎます」

団長は二人の意見を聞きながら、思案していた。

「しかし、隊内ではセリアを異端として追放すべきだという声が強まっている。特に信仰心の強い者たちからの反発が大きい」

レオンは眉をひそめ、悔しそうに言った。

「力の性質が不明な以上、完全に異端と決めつけるのは危険です。もう少し調査をしてからでも遅くはないかと」

団長は深く息をつき、セリアに視線を向けた。

「セリア、君にはしばらくの間、謹慎を命じる。力の制御ができない以上、他の隊員たちを不安にさせないためだ」

「……はい」

「謹慎中は、自室で待機し、訓練への参加を禁じる。力を制御できるようになるまでは、外部との接触も避けるように」

セリアはうつむいたまま、声を振り絞った。

「分かりました……」



自室に戻ったセリアは、ベッドに座り込み、涙をこぼした。

(私がいるせいで、みんなが不安になっている……私の力が異端だって言われている……)

歌唱杖を握りしめ、震える声で歌を口ずさんだが、音はかすれて力を持たなかった。

(私の歌は、仲間を守るためのものだったのに……)


その時、窓の外から声が聞こえた。

「セリア、いるか?」

リクだった。窓を開けると、リクが不器用に笑っていた。

「お前、また泣いてんのかよ。そんな顔、らしくねえぞ」

「リク……ありがとう。でも、私……みんなに迷惑をかけてる」

「そんなことねえって! あの時、お前がいなきゃ全滅してたんだからさ。俺はお前を信じてるから」

「でも……私が異端者だって言われてる以上、リクまで巻き込んでしまうかもしれない」

「バカ言うなよ。俺はお前の友達だろ? そんなんで引き下がれるかよ」

リクの真っ直ぐな言葉に、セリアは少しだけ笑顔を取り戻した。

「ありがとう、リク……私、もう少し頑張ってみる」

「その意気だって! いつかお前の歌が異端じゃないって証明しようぜ!」


セリアは心の中で小さな希望を感じた。

(私の歌が異端かどうかを決めるのは、私自身……)

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