35.歌が裁く解放の響き
轟撃獣の激しい咆哮が東門を揺るがしていた。
バリアが砕け散り、隊員たちは次々と吹き飛ばされ、地面に叩きつけられている。
「くそっ……防ぎきれない!」
レオンが剣を支えに立ち上がり、歯を食いしばりながら轟撃獣を睨む。
「なんて力だ……これまでの魔物とは次元が違う……」
セリアは崩れた瓦礫の上に倒れ込みながら、震える手で歌唱杖を握りしめていた。
(守るための歌じゃ、もう……仲間を守れない……!)
ふと、前世の記憶が断片的に脳裏をよぎる。
(共振……音波エネルギーが重なり合い、破壊の力を生む現象……)
(音響工学の理論で確かに見た……音を重ねて、強大な力を生む方法……)
セリアはその記憶を振り払おうとした。
(ダメだ……攻撃の歌なんて、使ってはいけない。異端の力……そんなことをしたら、私は……)
しかし、再び轟撃獣がエネルギーを溜め、破壊の咆哮を放とうとしている。
レオンが立ちはだかるが、明らかに限界が近い。
「セリア、逃げろ……俺が時間を稼ぐ!」
「ダメです! 副団長が倒れたら、みんなが……!」
レオンが必死に叫ぶ。
「お前が倒れたら、誰がみんなを支えるんだ! 無茶はするな!」
その時、リクが傷だらけの体で駆け寄ってきた。
「セリア、あんたがいなきゃ、俺たち……でも、どうすれば……」
涙が溢れ、声が震える。
(みんなを守りたい……でも、どうすれば……)
セリアは胸の奥から湧き上がる感情を抑えきれなくなっていた。
(守るためには、攻撃するしかない……それが異端でも、私は……)
頭の中で、音が響く。
それは、前世で研究していた音波の共振実験の音。
「破壊の音響エネルギー……音を重ね、共振を起こすことで莫大な力が生まれる……」
(あの時の理論が、今ここで活かされる……?)
セリアは深く息を吸い、心の中で強く叫んだ。
(お願い……みんなを守るための力を……!)
立ち上がり、歌唱杖をしっかりと握りしめる。
レオンとリクが驚いた顔でセリアを見る。
「セリア……お前、何を……?」
「守るために……私は、やります!」
轟撃獣が咆哮を上げ、破壊の衝撃波を放とうとする。
その瞬間、セリアが口を開き、歌声を響かせた。
「――灼熱の風よ、力を重ね、全てを断ち切れ!」
深く、力強く、激しい旋律が空気を震わせる。
音波が重なり合い、共振を起こし、轟撃獣の周囲に灼熱の炎が巻き起こる。
「ぐおおおおおおおっ!!!」
轟撃獣が苦しみながら暴れ回り、やがてその体が崩れ落ちた。
一瞬の静寂。
隊員たちが呆然と立ち尽くし、セリアもその場に膝をついた。
(私……攻撃の歌を……)
隊員たちが次々とざわめき始めた。
「今の……なんだ……?」
「炎が……魔物を焼き尽くした……」
「まさか、あれが攻撃の歌なのか……?」
「異端の力……解放の歌だ……!」
誰かが叫んだ。
「セリアは異端者だ! 解放者なんだ!」
一気に不安が広がり、隊員たちがセリアを恐れた目で見始める。
レオンが前に出て叫んだ。
「待て! セリアがいなければ、今頃全滅していたはずだ!」
「でも副団長、あれは異端の力です! 攻撃の歌は禁忌だと教わってきました!」
アイリスも困惑しながらセリアを見つめる。
「セリア、本当にあれは……攻撃の歌なの?」
「……はい。でも、私……ただ、みんなを守りたくて……」
アイリスが困惑しながらも、震える声で言った。
「でも、それが解放の力だとしたら……あなたは……」
レオンが強い口調で言い放つ。
「今ここで異端だと決めつけるわけにはいかない! まずは本部に戻り、団長の判断を仰ぐ。それまでは誰もセリアに手を出すな!」
隊員たちは困惑しながらも、レオンの言葉に従い、態勢を整え始めた。
セリアは俯いたまま、リクが支えてくれるのを感じていた。
「セリア……大丈夫か?」
「……ごめんなさい、私……私が間違ったことをしたせいで……」
「違うだろ! お前がやらなきゃ、みんな死んでたんだ!」
「でも、異端者だって……言われてる……」
リクは強く首を振った。
「俺はお前を信じてる。異端者なんかじゃないって!」
セリアは涙を流しながら、リクの言葉に少しだけ救われた気がした




