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34.歌が裁く攻防の調和

神詠騎士団本部には、前回の魔物襲撃を乗り越えた安堵の空気が流れていた。

南門の防衛戦では、セリアが編み出した「流転の守護歌」により、鉄鎧獣の強力な突進を防ぎきることができた。

隊員たちは少しずつ自信を取り戻し、訓練にも熱が入っている。


セリアは訓練場の片隅で、リクと共に新たな歌の実験をしていた。

「流転の守護歌、確かに効果はあったけど、もっと衝撃を和らげる形にできないかな?」

「守りの力を強めるってことか?」

「うん。風を流して衝撃を分散させるだけじゃなく、相手の力そのものを無力化できれば、一方的に攻撃されずに済むかなって」

リクが目を輝かせた。

「それって、守りながら相手の攻撃を受け流す感じか? なんかすげえな!」

「でも、力を完全に流しきるには、もっと歌の共鳴を調整しなきゃいけなくて……」

「お前ならきっとできるって! 俺も協力するからさ!」

「ありがとう、リク。頑張ってみるね」



その時、レオンが急ぎ足で訓練場に現れた。

「セリア、リク、緊急事態だ。東門に強力な魔物が出現した」

「また魔物……?」

「今回はこれまでとは違う。防御を無視して突き破ってくる力を持っているらしい。至急現場へ向かうぞ!」

「分かりました!」



東門に到着すると、巨大な魔物「轟撃獣ごうげきじゅう」が門を破壊しようとしていた。

その体は黒い金属のように硬質で、圧倒的な威圧感を放っている。

「くそっ、あれが防御を突き破っているのか!」

剣士たちが防御を試みるが、轟撃獣が地面を踏み鳴らすたびに衝撃波が広がり、全員が吹き飛ばされてしまう。

「バリアが効かない……!」

アイリスが驚愕の表情を浮かべた。

「衝撃波そのものが力を通過させる性質を持っているのかもしれないわ」


セリアが歌唱杖を構えた。

(防御を無視する力……なら、流転の守護歌で衝撃を吸収しきれない。どうすれば……)

「――流転の風よ、力を包み、衝撃を分散せよ!」

柔らかな風が衝撃波を包み込み、力が分散されていく。

「やった……効いてる!」

だが、次の瞬間、轟撃獣が咆哮し、さらに強力な衝撃波を連続で放ってきた。

「ダメだ……持たない……!」

バリアがひび割れ、セリアの体がぐらつく。


レオンが駆け寄って叫んだ。

「セリア、無理はするな!」

「でも……このままじゃ門が壊れます!」

「俺たちが剣で引きつける! お前は体勢を立て直せ!」

「分かりました!」



剣士たちが轟撃獣に突撃し、レオンが剣を振りかざす。

「光の剣閃!」

だが、硬質な装甲に弾かれ、逆に反撃を受けて吹き飛ばされる。

「なんて硬さだ……!」

アイリスが急ぎ回復歌を歌う。

「――癒しの風よ、傷を癒し、力を与えよ!」

だが、轟撃獣が再び衝撃波を放とうとする。


セリアは必死に考えた。

(流転だけじゃダメ……衝撃を逃がすだけじゃなく、力を吸収して無力化できれば……)

「――響きの風よ、力を包み、巡らせて流し去れ!」

風が渦を巻き、衝撃波がバリアに吸収されると同時に、その力が緩やかに地面へと流れていった。

「やった、攻撃を受け流せた……!」

だが、その喜びもつかの間、轟撃獣はさらに激しい咆哮を上げ、全身を震わせた。

「まずい……もっと強い衝撃が来る……!」


レオンが叫んだ。

「全員退避! バリアが持たない!」

セリアは震える手で歌唱杖を握りしめた。

(守りきれない……どうすれば……?)

轟撃獣が巨大な力を溜め、次の一撃を繰り出そうとしている。


アイリスが駆け寄り、セリアの肩を叩いた。

「セリア、無理をしないで! あなたが倒れたら、守る力がなくなってしまう!」

「でも、私が止めなきゃ……!」

その時、轟撃獣の一撃が直撃し、セリアのバリアが砕け散った。

衝撃波が周囲を巻き込み、隊員たちが次々と吹き飛ばされる。

「うあああっ!」

レオンが防御態勢を取るも、膝をつき、苦しそうに息を吐く。

「くそっ……これが限界なのか……?」

セリアは崩れ落ちながら、涙をこぼした。

(守りたいのに……私の力じゃ、みんなを守れない……!)


その瞬間、頭の中に断片的な記憶が蘇った。

(音響工学……音波の共振……共振が破壊力を生む……!)

(まさか……攻撃の歌……? でも、それは異端の力……)

セリアの胸が苦しくなる。

(攻撃の歌を使えば、私は……)


轟撃獣が再び力を溜め始めた。

絶望の中、セリアは震えながらも必死に考えた。

(守るためには……攻撃するしかない……?)

暗闇に覆われそうな意識の中で、セリアは決断を迫られていた。

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