33.歌が裁く守護の旋律
神詠騎士団の訓練場では、セリアが新たに編み出した共鳴支援歌「信頼の旋律」を繰り返し練習していた。
(仲間と共鳴を合わせることで、力が増幅される。けれど、まだ守護の力が十分じゃない……)
アイリスが横で見守りながらアドバイスを送る。
「共鳴支援歌は、仲間と合わせることで効果が増すけど、一人で使える守護歌があれば、もっと柔軟に対応できるはず」
「はい、でも一点集中型の守護歌だと、攻撃が一箇所に集中したときは防げるけど、連続攻撃には弱くて……」
アイリスは少し考え込んで言った。
「なるほど……それなら、力を流動的に分散させてみたらどうかしら?」
「流動的に……ですか?」
「風は本来、流れがあってこそ意味がある。固めるより、流すことで衝撃を和らげる方法もあるかもしれない」
セリアの目が輝いた。
「そうか……力を一点に集めるんじゃなくて、風のように流して分散させる……試してみます!」
その日の午後、レオンが訓練を指導していると、突然警報が鳴り響いた。
「南門に魔物発生! 大型個体を含む複数の反応!」
「全員、南門へ急行! 歌詠士は支援態勢を取れ!」
セリア、アイリス、リクもすぐに駆けつけた。
南門に到着すると、魔物の大群が門を破壊しようとしている。
その中には、異様に巨大な四足獣「鉄鎧獣」が威圧感を放って立っていた。
「なんて硬そうな体……!」
「ただの突進でも門が崩れるぞ!」
剣士たちが何とか防御しようとするが、鉄鎧獣の一撃で壁がひび割れ、倒れ込む者が続出する。
レオンが剣を構え、鉄鎧獣に斬撃を放つが、硬い甲羅に弾かれた。
「硬すぎる……!」
アイリスが急ぎ回復歌を歌う。
「――癒しの風よ、命を繋げ、傷を和らげよ!」
だが、次々と現れる小型の魔物「牙猿」が支援部隊に襲いかかり、混乱が広がる。
「くそっ、数が多すぎる!」
リクが剣を振るいながら叫ぶ。
「セリア、守護の歌を頼む!」
「分かった!」
セリアは深呼吸し、歌唱杖を握りしめた。
(流動的に力を分散させて……風のように流れ続ける守護の力を!)
「――流転の風よ、力を包み、衝撃を分散せよ!」
柔らかく、しかし力強い旋律が響き、透明なバリアが門全体を覆うように展開された。
鉄鎧獣が突進してくるが、その衝撃がバリアに触れた瞬間、力が周囲に流れていき、門には直接的なダメージが加わらない。
「耐えた……!」
リクが驚きながらも叫ぶ。
「すげえ、衝撃が流れてる! これなら耐えられる!」
レオンが前に出て剣を振りかざす。
「今だ、集中攻撃をかけろ!」
剣士たちが一斉に突撃し、レオンの剣が鉄鎧獣の関節部分に食い込んだ。
「光の剣閃!」
白光が炸裂し、鉄鎧獣が崩れ落ちる。
周囲の牙猿たちも討伐され、南門の守りがようやく整った。
隊員たちは息を整えながら、セリアに感謝の声を上げる。
「セリア、すごい歌だったぞ!」
「あの鉄鎧獣の突進を受け流すなんて……」
リクが笑いながら肩を叩いた。
「やっぱりお前はすげえな! 流転の歌って感じだな!」
セリアは少し照れながらも、充実感を感じていた。
(みんなを守れた……私の歌がちゃんと役立ったんだ)
アイリスが近寄り、微笑んで言った。
「力を流すという発想、見事だったわ」
「ありがとうございます。アイリス隊長のアドバイスがあったからです」
「いいえ、あなた自身が工夫して生み出した力よ。自信を持ちなさい」
「はい!」
その夜、セリアは自室で再び歌詞を書きながら考えていた。
(流転の守護歌……風を操る感覚で、もっと柔軟に使えるように改良しよう)
ふと、窓の外を吹き抜ける風が優しく響き、心が落ち着いていく。
(仲間を守るために……流れるように力を使える歌を)
セリアは新たな着想を得て、ノートにアイデアを書き留めた




