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30.歌が裁く裏切りの響き 

翌朝、神詠騎士団本部では、異端者の脱走事件が未だに解決されていない緊張感が漂っていた。

レオン副団長は、内部に潜む異端者の協力者を洗い出すために調査を進めていたが、明確な手がかりはまだ掴めていない。


「隊内から異端者に加担する者がいるなんて、信じられないな……」

「でも、異端者が牢を抜け出せたのは内部の手引きがあったとしか思えない」

「誰が裏切り者なんだ……」

訓練場でも、不安そうな隊員たちが小声で噂している。


セリアはその声を耳にしながら、昨日アイリスから聞いた情報を思い返していた。

(“解放”に共鳴した者がいる……もしそれが本当なら、私の歌も疑われるかもしれない)



その日の昼、レオンが全隊員を本部前に集めた。

「昨夜の調査で、異端者の脱走に関与している可能性がある者が判明した」

その言葉に、ざわめきが広がる。

「協力者と疑われているのは……歌詠士訓練生のユリウスだ」

驚きと困惑が一斉に噴き出した。

「ユリウス? あいつが裏切り者なのか?」

「まさか……信じられない」


ユリウスは若手の歌詠士訓練生で、真面目で大人しい性格として知られていた。

セリアも驚きを隠せずにユリウスを見つめた。

「ユリウスさんが……?」

リクが戸惑いながらセリアに囁いた。

「おい、ユリウスって確か歌唱訓練で一緒だったよな?」

「うん、優しい人だったし、そんなことするとは思えない……」


レオンが厳しい口調で続けた。

「ユリウスは、昨夜異端者と接触した形跡が確認された。詳しい事情を聞くため、拘束している」

その瞬間、訓練場の隅で叫び声が響いた。

「違う! 僕はそんなことしてない!」

兵士に両腕を押さえられたユリウスが必死に訴えている。

「僕はただ、歌の練習をしていただけなんだ! 誰かが僕の部屋に異端者の印を置いたんだ!」

「言い訳をしても無駄だ。証拠が出ている以上、調査を続けさせてもらう」

レオンの冷静な言葉に、ユリウスは肩を落とした。



その夜、セリアはどうしても納得がいかず、リクと共にユリウスの件を話し合っていた。

「ユリウスさんが異端者に加担するなんて、本当にありえるのかな……?」

「正直、信じられないよな。あいつ、いつも真面目に訓練してたしさ」

「何かおかしい気がする……。証拠が偽造されている可能性もあるかも」

「どうする? レオン副団長に相談してみるか?」

「でも、証拠があるって言われてる以上、疑いを晴らすのは難しいかも……」


その時、アイリスが部屋に入ってきた。

「セリア、リク、ちょっといいかしら?」

「アイリス隊長、何か分かったんですか?」

「実は、調査している中で、ユリウスの部屋から発見された“異端者の印”がどうも不自然だと判明したわ」

「不自然?」

「普通、異端者が使う印には特有の黒い痕跡が残るのだけれど、今回の印にはそれがないの」

セリアはハッと気づいた。

「つまり、偽物の可能性が高いってことですか?」

「ええ。誰かが意図的にユリウスを陥れようとしたのかもしれない」

リクが拳を握りしめた。

「そんなの許せねえ! じゃあ、真犯人がいるってことか?」

「その可能性が高いわ。私はもう少し調べるけど、セリア、あなたも何か気づいたことがあれば教えて」

「分かりました!」



翌朝、セリアはユリウスが取り調べを受けている部屋の前に立っていた。

(ユリウスさんが本当に無実なら、なんとかして助けないと……)

扉の向こうから、微かにユリウスの歌声が聞こえてきた。

「――響きの風よ、僕を信じて……」

その歌を聴いた瞬間、セリアは何かを思い出した。

(この歌……共鳴のリズムが微妙に違う?)

歌声の不自然さを感じたセリアは、急ぎレオンの元へ向かった。

「副団長! ユリウスさんの歌、共鳴が狂っていました!」

「どういうことだ?」

「異端者が使う歌と、ユリウスさんの歌が異なる感じがするんです。もしかしたら、本物の異端者が偽装しているかもしれません!」

レオンが考え込み、すぐにアイリスを呼び出した。

「アイリス、ユリウスが歌っている場所を確認してくれ。偽物の可能性が出てきた」

「分かりました!」



しばらくして、調査を進めた結果、ユリウスの歌声が「別人」によって操作されていたことが判明した。

実は異端者が潜入し、ユリウスの姿に偽装していたのだ。

正体を暴かれた異端者はすぐに拘束され、ユリウスの無実が証明された。


セリアはユリウスに駆け寄り、安堵の表情を浮かべた。

「ユリウスさん、大丈夫ですか?」

「ああ……セリア、ありがとう。君が気づいてくれなければ、僕は……」

リクも笑って肩を叩いた。

「よかったな、ユリウス! セリアのおかげだぜ!」

「本当にありがとう……」

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