31.歌が裁く信頼の旋律
ユリウスの無実が証明され、異端者が騎士団内部に潜り込んでいたことが判明した翌朝、神詠騎士団本部には緊張感が依然として残っていた。
レオン副団長とアイリス隊長は、内部調査を徹底するよう命じているが、隊員たちの間にはまだ不安が渦巻いている。
「異端者が騎士団に潜んでたなんて……」
「誰が敵で誰が味方かわからないなんて、怖いよな」
「ユリウスが疑われたのも、仕方ないかもしれないけど……」
セリアはその声を耳にしながら、胸が痛むのを感じた。
(私の力も異端だと疑われている……私自身がみんなを不安にさせているのかもしれない)
昼休み、リクがセリアを訓練場の片隅に誘った。
「おい、セリア。少し気晴らししようぜ!」
「気晴らしって……今そんな状況じゃないよ」
「だからこそだろ? お前、最近ずっと気にしすぎだって」
セリアは少し苦笑いしながら、リクが持ってきた水筒を受け取った。
「ありがとう、リク。私が気にしすぎてたのかも」
「そりゃあ、仲間を守りたい気持ちはわかるけどさ、もっと楽にいこうぜ。お前が落ち込んでたら、余計にみんなが不安になるだろ?」
「そうかもしれない……でも、どうすればみんなを安心させられるんだろう?」
「うーん、やっぱりお前の歌だろ。あの共鳴支援歌、みんなびっくりしてたけど、効果あったしさ」
「共鳴支援歌か……もう少し工夫すれば、もっと安心感を与えられるかもしれない」
リクがニカッと笑った。
「それだよ! お前の歌が仲間を守るって、みんなに感じさせれば大丈夫さ!」
午後の訓練が始まり、レオンが隊員たちに訓示を行っていた。
「内部の異端者を一掃するため、引き続き警戒態勢を維持する。しかし、不安に囚われて士気が下がることがないよう、互いに声を掛け合い支え合ってほしい」
隊員たちは頷きながらも、まだ完全には安心しきれない様子だ。
セリアはその様子を見て決心した。
(ここで私の歌を使って、少しでも不安を和らげることができれば……)
レオンがセリアの意図を感じ取り、微笑んで頷いた。
「セリア、やってみるといい」
「はい!」
セリアは歌唱杖を握り、ゆっくりと息を整えた。
(仲間の心を繋ぐ歌……共鳴を使って、気持ちを一つにまとめる)
「――響きの風よ、音を重ね、心を繋げ――信頼の旋律!」
柔らかな旋律が訓練場全体に広がり、風が優しく吹き抜ける。
その歌声を聞いた瞬間、隊員たちは心が軽くなったように感じ、ざわめきが徐々に収まっていく。
「なんか、気持ちが安らぐ……」
「そうだな……変な疑いを持つのはよくないかも」
「セリアの歌って、こんなに安心できるんだな……」
リクが笑顔で声を上げた。
「な、言っただろ! セリアの歌が俺たちを守ってくれるんだって!」
レオンが満足そうにうなずく。
「不安が消え去るわけではないが、信じ合う気持ちを取り戻すことができれば、それが強さになる」
アイリスも感心した表情で頷いた。
「セリア、よくやったわ。信頼を繋ぐ歌……まさに今、必要なものだったわね」
「ありがとうございます。みんなの気持ちが少しでも和らげばいいなって思って……」
その日の夜、セリアは訓練場の片隅で一人静かに歌を口ずさんでいた。
(信頼の歌……共鳴を活かして、もっと心を結びつける歌を作りたい)
ふと、月明かりの中で歌うと、微かな風が共鳴して心地よい響きが生まれた。
「――繋がる風よ、心を包み、共に歩め――」
その歌声に、背後から声がした。
「やっぱり、お前の歌は安心できるな」
振り向くと、リクが少し照れくさそうに立っていた。
「リク……」
「さっきの歌、すげえよ。みんなが少しずつ元気になってたしさ」
「本当に……?」
「ああ。お前の歌には、不思議な力があるよ。守るだけじゃなく、みんなを支える力がさ」
セリアは少し照れながら微笑んだ。
「ありがとう、リク。私、これからもみんなを守れる歌を歌うね」
「おう、期待してるぜ!」
その夜、セリアは自室で新たな歌の歌詞を書き始めた。
(信頼を繋ぎ、心を支える歌……もっと工夫して、騎士団全体を守れるように)
ペンを走らせながら、セリアは新たな力への確信を深めていった。