28.歌が裁く仲間の証
異端者集団を撃退した翌朝、神詠騎士団の本部には重苦しい空気が漂っていた。
異端者の「解放」という言葉が再び隊員たちの間で議論を呼び、セリアの力がその「解放」と同じではないかという疑念が消えていなかった。
「セリアの力、確かに強すぎないか?」
「共鳴とか言ってたけど、あれって解放の応用なんじゃないのか?」
「でも、セリアが守ってくれなければ北門は突破されてたぞ」
「わかってるけど、やっぱり怖いだろ」
訓練場で耳に入る仲間たちのささやきに、セリアは拳を握りしめた。
(私は……守るために戦っているのに……)
その時、リクが駆け寄ってきた。
「おい、気にすんなって! 昨日の戦い、みんなわかってるさ」
「でも……やっぱり解放って言葉が引っかかってるみたい」
リクは少し困ったように笑った。
「まあ、あの異端者が叫んでたからな。でもさ、セリアの歌は異端じゃないって、俺は知ってる」
「ありがとう、リク。私、もっと力を制御できるようになりたい」
「なら、一緒に特訓だな!」
その日の午後、レオンが訓練場に隊員を集めていた。
「昨日の戦闘で異端者を制圧できたが、まだ不安が残っている者もいるだろう」
アイリスが続ける。
「セリアが使った力は確かに強力だった。しかし、暴走したわけではなく、しっかり制御されていた」
「でも、解放という言葉がどうしても引っかかります」
一人の隊員が不安そうに発言した。
レオンは厳しい目で全員を見渡した。
「力が異端かどうかを判断するのは危険だ。セリアの歌が異端かどうかではなく、その歌が仲間を守るために使われた事実を重視すべきだ」
「でも……力が強すぎるんです。もしまた暴走したら……」
レオンが答えに窮していると、セリアが前に出た。
「私の歌が怖いなら、もっと制御できるように努力します。でも、私はこの力で仲間を守りたいんです」
その強い言葉に、隊員たちは一瞬戸惑った表情を見せたが、リクがすかさずフォローする。
「みんな、セリアが怖がってたら余計に力を制御できなくなるだろ? もっと応援してやろうぜ!」
「リク……」
「セリアだって、力をうまく使えるように頑張ってきたんだ。俺たちが支えてやれば、もっと上手くいくに決まってる!」
その言葉に、ようやく隊員たちの間に安堵の色が見えた。
「……確かに、セリアは頑張っている。あの力も、守るために使ってたしな」
「そうだよな……悪意がないのに疑うのは良くないかも」
少しずつ雰囲気が和らぎ、セリアもほっと息をついた。
訓練が終わり、セリアは中庭で一人、歌の練習をしていた。
(私は異端じゃない……でも、みんなを納得させるには、もっと安定した歌が必要だ)
「――守護の風よ、音を重ね、力を柔らげよ……」
バリアが柔らかく展開され、穏やかな音が響く。
(うまくできた……でも、これだけじゃ不十分かもしれない)
その時、アイリスが近づいてきた。
「セリア、今日の訓練での言葉、良かったわ」
「ありがとうございます。でも、まだ皆に信じてもらうには足りない気がして……」
アイリスは少しだけ微笑んで言った。
「信じてもらうためには、結果を示すことが一番よ。あなたが努力を続けていれば、自然とみんな理解するわ」
「でも……怖がらせないように、もっと歌を工夫したいんです」
「そうね……“共鳴”を使った防御が成功したなら、逆にそれを活かして支援歌に応用できないかしら?」
「支援歌に……共鳴?」
「力を和らげるだけじゃなく、仲間の動きを調和させることで、より統率の取れた支援ができるかもしれないわ」
セリアはハッと気づいた。
「そうか……共鳴を使って、みんなの動きを一つにまとめれば……!」
アイリスが頷き、優しく励ました。
「あなたならきっとできるわ。焦らず、少しずつ進んでいきましょう」
「はい、ありがとうございます!」
その夜、セリアは寮の自室で新しい歌を考えていた。
(共鳴を利用して、仲間の力を一つにまとめる歌……)
ふと、窓の外に満月が見え、静かに歌を口ずさむ。
「――響きの風よ、音を重ね、共に進め……」
柔らかな旋律が心地よく広がり、窓ガラスが微かに共鳴している。
(これだ……仲間と共に進むための歌。これなら、きっと……)
セリアは歌詞を書き留め、新しい歌の形を模索し続けた。
(私は、この歌で仲間を守る。異端なんかじゃない、私の信念の歌だ)




