1.歌が裁く入団試験
王都ヴェルナスは朝靄に包まれ、広場には澄んだ空気が満ちていた。
神詠騎士団の入団試験が行われるこの日、若者たちは緊張と期待を抱きながら集まっている。
その中に、銀色の髪を朝日に輝かせた一人の少女がいた。
セリア・ライトフォード――歌詠士として生きることを志し、この場に立っていた。
「……深呼吸、深呼吸」
セリアは小さく息を吐き出し、胸元を抑えながら自分を落ち着かせた。
手にした歌唱杖を握りしめ、周囲の様子を伺う。
同じく入団を目指す者たちが整列し、次々と名前を呼ばれている。
「次、セリア・ライトフォード!」
試験官の厳しい声が響き、セリアは顔を上げた。
一歩前に出ると、数多くの視線が自分に向けられているのを感じる。
息を整え、試験官の前に立った。
「まずは支援魔法の実技だ。加護の歌を披露せよ」
試験官が冷静に指示を出す。
セリアは喉を潤し、ゆっくりと呼吸を整えた。
自分の中に眠る力を信じ、歌い始める。
「――光を与えし、癒しの旋律よ、魂に安寧を……」
透き通るような歌声が空気に溶け込み、柔らかな光がセリアの周囲に広がった。
優しい響きとともに、試験官の表情が和らいでいく。
光は次第に強まり、まるで聖なる加護が降り注ぐかのように感じられた。
「これは……」
試験官が驚いたように声を漏らす。
「非常に安定している。加護の歌としては、申し分ない」
セリアは安堵し、静かに歌を終えた。
「合格だ。次の試験へ進め」
試験官の合格宣言に、セリアは胸を撫で下ろした。
次の試験は、支援魔法の応用技術を披露するものだった。
「次は、守護の歌を披露せよ。防護の力を示すことが求められる」
セリアは再び歌唱杖を握り、目を閉じた。
この魔法は、周囲を守る力を持つ防御歌。
試験官の合図とともに、再び歌い始める。
「――守りの風よ、盾となりて、全てを包め……」
澄んだ旋律が響き渡り、淡い風がセリアの周囲を巻き始めた。
次第にその風は力を持ち、光のバリアを形成する。
試験官が杖を振り、木片を投げつけるが、その全てが風に弾かれる。
「見事だ。防護魔法としての精度が高い。これならば、実戦でも十分に使えるだろう」
セリアは嬉しさを隠せず、少し微笑んだ。
「ありがとうございます!」
試験が一通り終わり、合格者が控室に集められた。
合格者同士が互いに成功を称え合う中、セリアは少しだけ不安を抱えていた。
(本当にこれでよかったのかな……?)
彼女が歌を歌うたび、体の奥底から湧き上がる共鳴が感じられた。
他の歌詠士が持っていない感覚――それが不安の原因だった。
「お疲れさま、セリア」
声をかけてきたのは、同じく合格した少年、リクだった。
「君の歌、すごかったね。あんなに力強い加護の歌、見たことないよ」
「そ、そうかな……ありがとう」
リクの明るい笑顔に、セリアは少しだけ気が楽になった。
「これから、一緒に頑張ろうな!」
「うん、よろしくね」
リクと握手を交わし、ようやく肩の力が抜けた気がした。
その時、控室の扉が開き、一人の男が姿を現した。
金髪で、鋭い眼光を持つ副団長のレオン・アークライトだった。
「合格者は整列しろ。これから団長による入団宣言がある」
レオンの指示に従い、新人たちは整列した。
しばらくして、団長グラン・エスパーダが現れた。
威厳に満ちた声が、訓練場全体に響き渡る。
「今日から君たちは神詠騎士団の一員だ。光の歌をもって、民を守る剣となれ」
団長の力強い声に、新人たちは胸を張って応じた。
セリアもその言葉を心に刻み、「私も守れる力を手に入れたい」と強く思った。
夜、寮の小さな部屋で、セリアは静かに歌唱杖を手に取った。
「これが、私の新しい日々の始まり……」
窓から差し込む月光が、彼女の決意を照らしているようだった。