27.歌が裁く共鳴の力
翌朝、神詠騎士団の訓練場には活気が戻っていた。
セリアは昨日の夜、共鳴の力を掴みかけた手応えを確認するために、早朝から歌の練習をしていた。
(音を重ねる……響きを合わせて、衝撃を和らげる。これが“共鳴”の本質)
「――守護の風よ、響きを重ね、力を柔らげよ!」
歌唱杖を振ると、透明なバリアが穏やかに広がった。
(うまくいった……前よりも安定している)
アイリスがその様子を見て、驚いた表情を浮かべた。
「セリア、今の歌……音が調和していて、力が乱れていないわね」
「はい、共鳴を意識して歌ったら、自然と安定しました」
「音を重ねる感覚か……あなた、本当に独学でそこまで到達したの?」
「正直、私にもはっきりとは……でも、感覚として掴んだ気がします」
その時、突如として王都の北門から警報が鳴り響いた。
「北門に異端者が現れた!」
レオンが素早く指示を出す。
「全員、北門に急行! 戦闘態勢を整えろ!」
セリアとアイリスも急ぎ現場に向かった。
北門前には、黒装束をまとった異端者集団が陣取っていた。
「我らが力を解放せし者たちよ! 偽りの光を打ち砕け!」
先頭に立つ異端者が叫ぶと、背後に控えていた仲間たちが一斉に呪文を詠唱し始めた。
「――闇の力よ、我が声に応じて、光を滅せよ!」
黒い靄が集まり、重苦しい空気が門周辺を覆っていく。
レオンが剣を構え、騎士団の隊員たちに号令をかけた。
「全員、防御体制を固めろ! 歌詠士は支援準備!」
「はい!」
アイリスが歌唱杖を掲げ、力強く歌う。
「――聖なる光よ、闇を打ち払い、道を照らせ!」
浄化の風が黒い靄をかき消し、視界が少しずつ晴れていく。
しかし、異端者のリーダーが不敵な笑みを浮かべ、さらに力を込める。
「解放の歌を恐れるか! 我らが求めた真実の力を見せてやる!」
異端者の周囲に黒い風が渦巻き、重力が歪むような感覚が押し寄せる。
「これが……解放の力?」
セリアはその異様な共鳴に、一瞬だけ息を呑んだ。
レオンが前に出て、剣を掲げる。
「光を纏い、闇を断て――聖剣クラウディア!」
聖剣が強く輝き、光の波が異端者の黒風を押し返す。
「やったか?」
しかし、リーダー格の異端者が笑い声を上げた。
「その程度の光では我らの闇を覆えぬ!」
異端者が手をかざすと、黒い刃が形成され、騎士団に向かって飛んでくる。
「――守護の風よ、仲間を包み、力を和らげよ!」
セリアが素早くバリアを張り、黒い刃を受け止めた。
しかし、刃の衝撃が強すぎて、バリアがひび割れる。
「まだ耐えきれない……!」
(共鳴をもっと強く……音を重ねて衝撃を逃がす!)
セリアは歌のリズムを少し変え、音の層を増やすように歌った。
「――響きの風よ、共鳴せよ、力を拡散し守りを築け!」
重なり合った音波がバリアを強化し、黒い刃が完全に弾かれた。
「成功した……!」
リーダー格の異端者が焦った顔を見せる。
「貴様……その歌は何だ? 解放の力ではないのか?」
「違う! これは私の力! 仲間を守るために歌っているだけ!」
「馬鹿な! 我々が求めた解放と同じだというのに!」
セリアは毅然と立ち向かう。
「あなたたちの力は、破壊を求めているだけ。でも、私の歌は守るためのもの。決して同じではない!」
リーダーが叫びながら突撃してくる。
「黙れ! 真実の力を恐れるな!」
その瞬間、レオンが前に出て剣を振るう。
「セリア、守りを頼む!」
「はい!」
「光の剣閃!」
レオンの一撃が異端者の武器を弾き飛ばし、背後からリクが突きで異端者を打ち倒す。
「やったか!」
異端者のリーダーが膝をつき、力を失って倒れた。
騒動が収まり、隊員たちが異端者を拘束している中、レオンがセリアの肩に手を置いた。
「見事だった、セリア。共鳴を活かして歌を制御したのは正解だ」
「ありがとうございます。私、やっと自分の歌を信じられました」
アイリスも微笑んで頷く。
「守るための歌という信念が、力を安定させたのね。これからもその気持ちを忘れないで」
「はい!」
その夜、セリアは宿舎のベッドで静かに考えていた。
(異端者たちが求める“解放”……私が使っている共鳴の力と似ているの?)
思考が巡るが、今は一つだけわかることがある。
(私は、この歌で仲間を守りたい。それだけは確かなこと)
窓の外には満月が輝き、静かな夜が広がっていた。




